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4年生の世界昔話
ピノッキオ
コッローディの童話
むかしむかし、子供(こども)がほしい、おもちゃ屋のゼペットじいさんは、ある日、子どものかわりに木のあやつり人形をつくりました。
人形の名前は、ピノッキオです。
目がクリクリと大きくて、木の鼻はツンとのび、なかなかにかわいい男の子です。
ゼペットじいさんは、星に願(ねが)いをかけました。
「どうか、このピノッキオが、ほんとうの子どもになりますように」
さて、あるま夜中のこと、ゼペットじいさんの家のまどから、一匹(1ぴき)のコオロギがはいってきて、ピノッキオを見つけました。
「やあ、かわいい坊(ぼう)や。ぼくはジミニー・クリケット。ジミーとよんでください」
そのときです。
夜空の星がまぶしくかがやくと、スーッと星の光に乗って、星の女神がピノッキオとジミーの前にやって来たではありませんか。
星の女神は、美しい声で言いました。
「やさしいゼペットじいさんの作った人形のピノッキオ。あなたに声と自由をあたえましょう。そして、ほんとうに良(よ)い子(こ)どもになったら、ゼペットじいさんの願(ねが)いどおり、人間の子どもにしてあげましょう」
そして女神は、魔法(まほう)の杖(つえ)をふりました。
とたんに、ピノッキオは、二本の足で立ちあがったのです。
星の女神はほほえむと、星の光に乗って、帰って行きました。
朝になり、目を覚(さ)ましたゼペットじいさんは、自分の方へかけてくるピノッキオにおどろいて、思わずほっぺたをつねりました。
「なんじゃ。わしはまだ、夢(ゆめ)をみとるのか?」
「おはよう、お父さん!」
「お父さん? お父さんだと? このわしがか? ・・・おおっ、ピノッキオ!」
ゼペットじいさんはピノッキオをだきしめ、それから大喜(おおよろこ)びで、ピノッキオが学校へ行けるように準備(じゅんび)をしました。
「いってきまーす。お父さん」
ピノッキオとジミーが学校への道を歩いていると、キツネとネコがやって来ました。
このキツネとネコは、人をだましてお金もうけをする、わるいやつらです。
キツネとネコは、ピノッキオに言いました。
「やあ、君ならきっと、見世物小屋(みせものごや)のスターになれるよ」
「えっ、スターに?」
「そうさ。君は大スターさ」
「大スターか、学校よりも楽しそうだね」
ピノッキオは、キツネとネコについて行くことにしました。
見世物小屋(みせものごや)の親方(おやかた)は、ピノッキオを見ると大喜(おおよろこ)びで、キツネとネコにお金をわたしました。
「さあさあ、世にもめずらしい、自分でうごく人形だよ」
ピノッキオが舞台(ぶたい)(ぶたい)に出ておどると、お客さんはしばらくビックリして、その後はわれんばかりの大拍手(だいはくしゅ)です。
ピノッキオはうれしくなって、むちゅうでおどりました。
でも舞台(ぶたい)が終わると、ピノッキオは家に帰してもらえず、鳥カゴへとじこめられてしまいました。
とじこめられたピノッキオが泣(な)いていると、スーッと光がさし込(こ)み、星の女神があらわれました。
「ピノッキオ、どうしてここにいるの?」
「どうしてって・・・」
ピノッキオは、ほんとうのことを言ったら、人間の子どもにしてもらえなくなると思い、うそをつくことにしました。
「じつは、いきなり見世物小屋の親方につかまったんです」
そのとたん、ピノッキオの木の鼻が、ズンズンとのびていきました。
「あれあれ、どうして? 鼻がのびていくよ」
あわてるピノッキオに、星の女神は言いました。
「いま、うそをつきましたね。あなたの鼻は、うそをつくとドンドンのびていくのです」
「うそじゃないよ。ほんとうだよ」
ピノッキオがそういうと、またまた鼻がのびていきました。
星の女神は、きびしい顔で言いました。
「うそというものは、一つつくと、新しいうそを重ねてつかなくてはならなくなります。ピノッキオ、あなたは本物の人間の子どもになりたくないのですか?」
「なりたいよ! 本物の人間の子どもになりたいよ。うそをいってごめんなさい!」
ピノッキオが泣(な)きながらさけぶと、星の女神は杖(つえ)で、鼻をもとどおりにして、鳥カゴのカギを開けてくれました。
そして、ピノッキオが出てくると、
「今度だけですよ、ピノッキオ。きっと、本物の良い子(よいこ)になるのですよ」
星の女神はそう言うと、星へと帰って行きました。
ジミーはピノッキオをつれて、ゼペットじいさんの家へ走って帰りました。
ピノッキオは、ゼペットじいさんとしばらくの間は、良い子(よいこ)で楽しくすごしました。
ゼペットじいさんは、それはそれはピノッキオをかわいがり、朝から晩(ばん)まではりきって世話をします。
ピノッキオも、ゼペットじいさんが大好(だいす)きでした。
けれども、ある日のこと。
学校へ行く途中(とちゅう)の道で、ピノッキオとジミーは、あのキツネとネコに、また見つかってしまったのです。
ピノッキオは、逃(に)げようとしました。
でも、キツネとネコは、ピノッキオをとおせんぼうすると、
「たいへんだ! ピノッキオ。君は病気なんだよ」
「ええっ、ぼくが病気?」
「そうさ。このままじゃあ、死んでしまうだろう。助かる方法(ほうほう)は、ただ一つしかない」
「どうするの?」
「それはだね。はやく楽しいところへ行って、思いっきり遊ぶんだ。そうすれば病気がなおり、元気になるんだよ」
「そうとも、元気になりゃ、お父さんも喜(よろこ)ぶぜ」
そう言うと、ピノッキオをジミーから引きはなして、港(みなと)へつれて行きました。
港には大きな船がとまっていて、たくさんの子どもたちが乗り込(のりこ)んでいます。
「あの、どこへ行くの?」
ピノッキオがたずねると、一人の男の子がこたえました。
「島の遊園地(ゆうえんち)さ。そこは子どもの天国なんだよ。思いきり遊ぼうよ」
ボーーーッ。
船が汽笛(きてき)をならして、海をすべり出しました。
ジミーは船の甲板(かんぱん)に、ピノッキオの姿(すがた)があるのを見ると、急いで木の板につかまって、船をおいかけました。
でも、とても船には追いつきません。
船はやがて、島の遊園地につきました。
子どもたちは先をあらそって、船をおりました。
かんらん車に、ジェットコースターに、メリーゴーランドに、ゲームにダンスホールと、ここにはなんでもあります。
どの乗り物も、ただで乗り放題、おまけに、ジュースやポップコーン、アイスクリーム、キャンディなども、食べ放題なのです。
ピノッキオもいつのまにか、星の女神との約束(やくそく)や、ジミーのこと、そして、大好(だいす)きなお父さんのこともわすれて遊んでいました。
そうしているうちに、ピノッキオはまわりの子供(こども)たちが、次々とロバになっていくことに気がつきました。
まわりの子どもたちばかりではありません。
ピノッキオの耳もロバの耳になり、おしりからは、しっぽがはえてきたのです。
「どうしよう!」
ピノッキオがさけんだとき、追いかけてきたジミーがようやくたどりつきました。
「ピノッキオ! すぐ海に飛(と)びこんで逃(に)げるんだ。ここは悪い大人たちが、ロバになった子どもたちを売りとばすところなんだ。君は一生、ロバのまま働(はたら)きたいかい?」
「そんなの、いやだ!」
ピノッキオは海に飛(と)び込(こ)むと、ジミーといっしょに板につかまって、やっとのことで港に帰りました。
ピノッキオとジミーが家に帰ると、ゼペットじいさんがいません。
かわりに、ドアに張り紙(はりがみ)がしてありました。
『大切なピノッキオがもどらないので、探(さが)しに行きます』
いつまで待っても、ゼペットじいさんは、もどって来ませんでした。
そして、ピノッキオとジミーは、悪い知らせを耳にしました。
ゼペットじいさんが、大クジラに飲まれてしまったというのです。
二人は海へ行き、そして大クジラをさがしました。
二人がついに大クジラを見つけたときは、大クジラは大きな口を開けて、さかなを飲(の)み込(こ)むところでした。
二人はさかなといっしょに、クジラの口からおなかの中へと泳いで行きました。
すると、クジラの中で、ゼペットじいさんが、ションボリと小舟(こぶね)に乗っていたのです。
「お父さん!」
「おおっ、夢(ゆめ)じゃないだろうな、ピノッキオ。おまえさえいてくれれば、クジラの中だろうと、かまいはしないよ」
ゼペットじいさんは、ピノッキオをしっかりだきしめて、何度もキスをしました。
「会えてうれしいよ。でもだめだよ。お父さん、家に帰ろうよ」
「だが、どうやって?」
ピノッキオは、ゼペットじいさんに言いました。
「舟(ふね)の中のものを燃(も)やして、煙(けむり)で大クジラのおなかの中をいっぱいにするんだよ!」
ゼペットじいさんとピノッキオは、イスやテーブルに、次々とランプの火をつけました。
するとたちまち、大クジラのおなかは煙(けむり)でいっぱいになりました。
煙(けむり)でくるしくなったのか、大クジラは大きな口を開けると、
「ハァックション!」
と、大きなクシャミをしたのです。
そのとたん、おなかの中の舟(ふね)は、波といっしょにものすごいいきおいで、大クジラの口から海へと押し流(おしなが)されました。
「やった!」
けれど、おこった大クジラが、追いかけてくるではありませんか。
大クジラに、舟(ふね)はたちまちこわされてしまいました。
ゼペットじいさんとジミーは、こわれた舟(ふね)の板きれや空きビンにつかまって、なんとか岸までたどりつきました。
ところが、ピノッキオの姿(すがた)がありません。
「おーい、ピノッキオ! どこにいるんだー!」
ゼペットじいさんとジミーがあたりをさがしていると、手も足もこわれて、ボロボロになったピノッキオが見つかりました。
ゼペットじいさんはピノッキオをつれて帰ると、ベッドに寝(ね)かせてオイオイと泣(な)きました。
「ごめんよ、ピノッキオ。大切なお前を死なせてしまって」
その夜おそく、星の女神が光に乗ってあらわれました。
そして、ベッドに横たわるピノッキオに言いました。
「ピノッキオ。あなたはお父さんを助けるために、勇気(ゆうき)をもってがんばりました。とてもいい子でしたよ。約束(やくそく)どおり、人間の子どもにしてあげましょう」
星の女神が杖(つえ)をると、ボロボロだったピノッキオの体がなおりました。
そして、木でできた体は、だんだんと人間の子どもの肌(はだ)にかわっていったのです。
目も耳も口も髪の毛(かみのけ)も、全て人間の子どもになったピノッキオは、元気よくベッドを飛(と)びおりました。
そして、泣(な)きながら眠(ねむ)っている、ゼペットじいさんのところへかけて行くと、ゼペットじいさんにだきついて言いました。
「お父さん、泣(な)かないで! だってぼく、今日から本物の人間の子どもになったんだよ!」
ゼペットじいさんは、今度はうれしくて、オイオイと泣(な)きだしました。
それからずっと、ピノッキオとジミーは、ゼペットじいさんと仲良(なかよ)く幸せにくらしたのです。
おしまい