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福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
絵から抜け出した子馬
香川県の民話 → 香川県情報
むかしむかし、ある村のお寺に、絵をかくのが何よりも好きな小僧さんがいました。
お経も覚えずに、ひまさえあれば絵ばかりかいていました。
「仏さまに仕える者が、そんな事でどうする。絵をやめないのなら、寺を追い出してしまうぞ」
和尚さんからきびしくしかられても、やっぱり絵をやめる事が出来ません。
そこで夜中にこっそり起きて、絵をかくことにしました。
ある日の事、小僧さんは子馬の絵をかきあげました。
まるで生きているみたいで、自分でも見とれるほどです。
小僧さんはうれしくなって、和尚さんに見つからないように自分の部屋にかくしておきました。
ところがしばらくたってこの村に、困った事が起きました。
すっかり黄色くなった麦の穂(ほ)を、食い荒らすものが現れたのです。
豊作だと喜んでいたお百姓さんたちは、とてもくやしがりました。
「こんな悪さをする奴は、とっ捕まえて殺してやる」
お百姓さんたちは畑に小屋をつくって、一日中見張る事にしました。
するとその晩、どこからともなく一頭の子馬が現れて麦畑の中へ消えていくではありませんか。
「さては、あの子馬が麦を食べているんだな」
見張りのお百姓さんたちは、こっそり子馬のあとをつけました。
そんな事とは知らない子馬は、うれしそうに麦畑を駆け回ると、立ち止まってはおいしそうに麦の穂を食べました。
「やっぱり、あいつだ」
「もう、ゆるせない」
お百姓さんたちは飛び出して、子馬を取り囲みました。
「逃がすんじゃないぞ」
「それ、追うんだ」
お百姓さんたちが必死で追いかけて行くと、馬はお寺の中にかけ込んでいきました。
「なんだ? お寺で馬を飼うわけないし、あずかったという話も聞いていないが」
不思議に思いながらも、お寺に行ってみるとどうでしょう。
馬の足あとが、てんてんと小僧さんの部屋まで続いているのです。
「まさか」
お百姓さんたちから話を聞いて、和尚さんが急いで小僧さんの部屋に行ってみました。
するとそこには、子馬の絵を抱いた小僧さんがすわっていました。
子馬は今にも絵から飛び出そうと、じっとこっちを見ています。
「こ、こ、この馬です」
あとからやってきたお百姓さんたちも、その絵を見て思わず息を飲みました。
泣き出しそうになっている小僧さんを見て、和尚さんが言いました。
「絵の馬が抜け出すとは、大した腕前だ。これからは、自由に絵をかいてもいいぞ」
そんな事があってから、小僧さんは仏さまの絵をたくさんかいて村人たちにわけてあげました。
村人たちはその絵を家宝にして、大切にしたということです。
おしまい
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