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弘法の衣(弘法大師)
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むかしむかし、外見だけで人を判断する、とても心のせまいお金持ちの主人がいました。
ある日の事、みすぼらしい姿のお坊さんが、このお金持ちの家へ托鉢(たくはつ)にやって来たのです。
お坊さんがお金持ちの大きな家の前に立って鐘を鳴らしてお経を読み始めると、家の中から主人が出て来て、お坊さんをじろりと見て言いました。
「ふん、乞食坊主(こじきぼうず)が。
いくらお経を読んでも、お前みたいな汚らしい奴にやる物はないぞ。
とっとと、出て行け!」
「・・・・・・」
お坊さんは黙って頭を下げると、そのまま立ち去りました。
さて次の日、同じ家に今度は立派な袈裟衣(けさごろも)を着たお坊さんが立って、鐘を鳴らしてお経を読み始めました。
すると、それを見た家の主人はびっくりして、
「これはこれは、お坊さま。
あなたの様な立派なお方が、こんなところではもったいのうございます。
ささ、どうぞ家に上って下され」
と、お坊さんを家の中へ通したのです。
主人は家の者に山の様なぼた餅を用意させると、お坊さんの前に差し出しました。
「大した物は用意出来ませんが、どうぞ、お召し上がり下さい」
すると、お坊さんは、
「これはこれは、どうもご親切に」
と、言いながら、そのぼた餅を手に取って、キラキラと光る袈裟衣へベタベタとなすりつけました。
それを見た主人は、びっくりして言いました。
「お坊さま。
せっかくのぼた餅を、何ともったいない。
その上、その立派なお衣まで汚されてしまうとは」
するとお坊さんは、すました顔で言いました。
「ご主人は覚えていないかもしれませんが、わしが昨日来た時、あなたはわしのみすぼらしい姿を見て、わしを追い返されました。
そして今日はわしのこの衣を見て、この様にごちそうまでしてくださる。
昨日のわしも、今日のわしも、同じわしじゃ。
ただ違うのは、身にまとうておる衣だけ。
とすると、家に上げてぼた餅を出してくれたのは中身のわしではなくて、わしが着ているこの衣ではないのか?
そこでわしは、このぼた餅を衣に食わせてやったのじゃ。
では、これにて失礼する」
お坊さんはそう言うと、そのまま旅に出てしまいました。
後になってお金持ちの主人は、このお坊さんが有名な弘法大師だった事を知ると、人を外見だけで判断する自分を深く反省しました。
そしてそれからは誰にでも優しく接する、とても心優しい主人になったと言う事です。
おしまい
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