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福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
クジラの皮の絵
高知県の民話 → 高知県情報
むかしむかし、あるところに、とてもゆかいなお百姓(ひゃくしょう)さんがいました。
ある日の事、お百姓さんが町へ行って宿屋に泊まると、頭の毛を長くのばした男の人と同じ部屋になりました。
(はて、この人はどんな仕事をしている人だろう? お百姓には見えないし、物売りにも見えないし)
お百姓さんが男の人をジロジロ見ていたら、男の人が怖い顔で、
「何か! ご用か!」
と、言いました。
そこでお百姓さんは、
「これは、失礼しました。
あの、失礼ついでにおたずねします。
お前さんはふつうの人に見えません、一体どんな仕事をしている人ですか?」
と、たずねました。
すると男の人は、大いばりで言いました。
「わしは、絵かきじゃ! お前の様な百姓とは違うわ!」
その態度に、お百姓さんはムッとして、
「なんだ、お前も絵かきか。それなら、わしと同じ仕事だ。大した事はない」
と、言ったのです。
「何と、お前も絵かきか。
よし、そんなら一つ絵の腕比べをしようじゃないか。
まずはわしが、先にかいてみせよう」
絵かきはふでと紙を取り出すと、さらさらっとかきあげました。
それは、男の人が川からあがってくる絵です。
(ほう、なかなかうまいもんだ)
お百姓さんは感心しながらも、わざとつまらなそうな顔で言いました。
「お前さんは、本物の絵かきですか?」
「当たり前じゃ! この絵はさっき川で泳いでいた人を見ていたので、それをかいた物じゃ」
「そうですか。
でもお前さんは、まだまだ見方がたりませんね。
これではとても、一人前の絵かきとは思えません」
「なんだと!」
「この絵を、よく見てごらんなさい。
足の毛が、みんな立っています。
人が川からあがった時は、毛はぬれてピッタリとはりつくはずですよ」
「ぬぬっ、・・・そんな細かいところまで、いちいちかけるか!」
「だからお前さんは、まだ一人前の絵かきじゃないと言ったのですよ」
お百姓さんに言われて、絵かきはくやしくてたまりません。
「ようし、そんならお前がかいてみろ」
「わかりました。
わたしは、こんなつまらない絵はかきません。
絵をかくには、物の特徴(とくちょう)をしっかりとつかむ事が大切なのです」
「ぬぬぬっ。・・・いいから、はやくかけ!」
「では」
お百姓さんはふでにたっぷりすみをつけると、ペタペタペタと紙をまっ黒にぬりはじめました。
絵かきがビックリして、
「これは、何の絵だ?」
と、尋ねたら、お百姓さんはすました顔で言いました。
「クジラの皮です」
「はあ? クジラの皮だと? ただ、まっ黒にぬりつぶしてあるだけじゃないか」
「そうですよ。
クジラというのは、人の何十倍もある大きな生き物です。
こんな小さな紙一枚では、とうていかけません。
だからこうして、皮のはしっこのところだけをかきました」
おしまい
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