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8月5日の世界の昔話

なんでものみこむかいぶつ

なんでものみこむかいぶつ
ロシアの昔話 → ロシアの国情報

 むかしむかし、あるところに、ロザリーというかわいい娘さんがいました。
 ロザリーには三人のにいさんがいましたが、それぞれお嫁さんをもらい、べつの家でくらしていました。
 だからロザリーは、森のちかくのちっぽけな家で、一人ぼっちですんでいました。
 さて、その森の中にはこまったことに、ウービルという、みあげるほど大きな女のかいぶつがすんでいました。
 いつもおなかをすかせていて、人間だろうと動物だろうと、手あたりしだいにのみこんでしまうのです。
 ロザリーは、ひさしぶりににいさんたちにあいたくなりました。
 そこで朝はやくから、おみやげにもっていくケーキをやきました。
 やきあがったケーキをテーブルの上のカゴにつめると、馬車(ばしゃ)をひくウマをだしに馬小屋にいきました。
 そこへ、おなかをすかせたウービルがやってきたのです。
「おや? クンクン。いいにおいがする」
 ウービルはながい鼻をヒクヒクさせながら、そこらをかぎまわりました。
 いいにおいは、ロザリーの家の台所からながれてくるので、ウービルは台所のまどにかけよると中をのぞきました。
 そこには、ケーキのつまったカゴがテーブルにのっています。
「これは、いいものがある」
 ウービルはまどをおしあげると、カゴをつかんでそのまま口の中へほうりこみました。
 おいしいケーキにありついたウービルは、ほんのすこしだけまんぞくして、森のほうへ帰って行きます。
 さて、ロザリーが台所にもどってみると、まどがあいていて、ケーキがカゴごとなくなっているではありませんか。
(これはきっと、ウービルのしわざだわ)
 ロザリーはしかたなく、もういちどケーキをやいて、べつのカゴにつめました。
 それから馬車にのって、まず、いちばん上のにいさんの家へいきました。
 ところがいくらもすすまないうちに、うしろで大声がしました。
「ロザリー、おまち! あたいの口からよだれがこぼれて、とまらないんだよ!」
 ロザリーがビックリしてふりかえると、ウービルがおいかけてきます。
 ウービルはあっという間に、馬車のうしろにやってきました。
 ロザリーはカゴからケーキを一つ取り出すと、思いっきりうしろへとなげました。
 ウービルは立ちどまって、それをひろいます。
(いまのうちだわ!)
 ロザリーはまえよりもはやく、馬車をはしらせました。
 でもウービルは、ケーキを口にほうりこむなり、ふたたび馬車をおいかけました。
 ウービルと馬車のあいだは、みるみるちかづいていきます。
「ロザリーおまち! あたいのおなかはまだまだペコペコだよ」
 ロザリーはまた一つ、ケーキをなげました。
 ウービルはたちどまって、ケーキを口にほうりこみ、すぐ馬車のうしろまでおいついてきました。
 一つ、また一つ、うしろへケーキをなげているうちに、とうとうカゴはからっぽになりました。
 ロザリーはおもいきって、からのカゴをなげました。
 ウービルはカゴをひろって、それものみこみました。
「ロザリーおまち! こんどはおまえを食べてあげるから」
 ロザリーは馬車からとびおりるなり、車りんをひとつはずしてうしろへころがしました。
 ウービルは立ちどまって、それをひろいあげました。
 そのすきにロザリーは馬車にのり、ウマにムチをいれました。
 車りんの三つしかない馬車は、ガタゴトゆれながらも、どうにかはしりました。
 ウービルは車りんをのみこんでしまうと、ふたたび馬車をおいかけました。
「ロザリーおまち! おなかがすいて、あたいの胃ぶくろはゴロゴロなってるんだよ」
 ロザリーは、つぎつぎと車りんをはずしました。
 ウマは車りんのない馬車をひきずってはしりました。
 それでもウービルは、車りんをのみこんでしまうと、すぐにおいついてきました。
 ロザリーは馬車からとびおりると、ウマをはずしてその背中にのりました。
 さすがのウービルも、馬車をのみこむには、じかんがかかります。
 大きな口へ馬車をおしこんでいるすきに、ロザリーをのせたウマはドンドンさきへすすみました。
 でも、ウービルはあきらめません。
 ついに馬車を飲み込んだウービルは、再びロザリーを追いかけました。
「ロザリーおまち! おまえをたべるまでは、あきらめやしないよ」
 ウービルの手が、ウマのしっぽをつかみました。
 ロザリーはウマからころがりおちると、むちゅうではしりました。
 ウービルはウマをつまみ上げると、ゴクリと飲みこみました。
 ところがウマは、ウービルのおなかの中で大あばれします。
 ウービルは気持ちがわるくなり、ウマをはきだしてしまいました。
 ウマはクルリとむきをかえ、家のほうへかけていきました。
 ウービルは、またもやロザリーをおいかけました。
 ロザリーはつかまりそうになると、頭にかぶっていたスカーフをなげ、ふくをなげ、クツやクツしたをなげました。
 ウービルはそのたびに足をとめて、口の中へほうりこみました。
 そのうちにあたりがくらくなり、夜になりました。
「ロザリーおまち! おや、どこへいったの? ・・・まったく、こうくらくては、わかりゃしない」
 ロザリーはくらやみにまぎれて、あっちこっちとにげまわり、やっとのことでいちばん上のにいさんの家にたどりつきました。
 ロザリーは、おもての戸をたたいていいました。
「にいさん、戸をあけて! わたしよ、いもうとのロザリーよ。かいぶつがそこまできているの!」
 ベッドでねていたにいさんは、戸の音にビックリしてとびおき、ロウソクに火をつけました。
 ロザリーはすっかりつかれていて、声がガラガラです。
 だからにいさんには、どうしてもいもうとだとはおもえませんでした。
 カギあなからそとをのぞくと、はだしの足がみえました。
「ロザリーだなんてとんでもない! わしのいもうとはとてもぎょうぎのいい娘だ。夜なかにはだしでくるわけがない」
 にいさんは、ベッドへもどってしまいました。
「ああ、だめだわ」
 ロザリーはおおあわてで、二ばん目のにいさんの家へいき、ドンドンと戸をたたいていいました。
「にいさん戸をあけて! わたしよ。いもうとのロザリーよ。かいぶつにおわれて、ふくもクツもとられてしまったの」
 ねむったばかりのところをおこされたにいさんは、ひどくふきげんで、ベッドをおりもしないでさけびました。
「こんな夜なかにおこすやつはだれだ! なにがロザリーなもんか。わしのいもうとはそんなガラガラ声じゃない。さっさときえうせろ!」
 そのとき、ウービルの足音がせまってきました。
「ああ、ここもだめだわ」
 ロザリーはまたかけだして、こんどは三番目のにいさんの家にいって、おもての戸をドンドンたたきました。
「にいさん、戸をあけて! わたしよ。いもうとのロザリーよ。ああ、はやく! かいぶつがもうそこまで」
 そのとき、にいさんはおかみさんとしごとをしていました。
「どこかの娘がいもうとにばけて、いれてほしいといっているぞ」
「あんなひどい声でロザリーだなんてとんでもない。はやくあっちへいくようにいってちょうだい」
 おかみさんが、イライラしていいました。
「でもひょっとしたら、どこかの娘さんがとまるところがなくて、こまっているのかもしれない。中にいれてやろうか?」
「とんでもない! ドロボウかもしれないわ」
 そのとき、またロザリーがいいました。
「おねがいだから戸をあけて。声はガラガラでも、まちがいなくいもうとのロザリーよ」
 にいさんはそっとまどをあけてみましたが、くらくてそこにだれがいるのかよくわかりませんでした。
 それでも、心のやさしいにいさんはいいました。
「誰だか知らないけど、こんな夜なかに家へいれるのはむりだよ。でもよかったら、なやの中でおやすみ」 
 ロザリーはあわてて、なやにとんでいきました。
 そこヘ、ウービルがやってきました。
「おお、いたいた。あたいのだいすきな食べ物」
 ウービルは大きな手をのばして、ロザリーのかみの毛をつかみました。
「やめて!」
 ロザリーは身をよじってにげると、ウービルの手の中にかみの毛をひとふさのこしたままなやにかけこみ、中からカギをかけました。
「あれ? あたいの食べ物はどこへきえた?」
 ウービルは、くらがりの中をさがしまわりました。
 あるくたびに地面がゆれ、イヌがほえはじめました。
「やっぱり、あの娘はかいぶつにおわれていたのだ」
 にいさんとおかみさんはまどをあけて、にわをみました。
 なやの戸をガタガタゆすっていたウービルは、ようやくあきらめたらしく、ロザリーのかわりにほえているイヌをつかんで、頭からのみこんでしまいました。
「あたいのロザリー、あたいの食べ物」
 ウービルはわめきながら、くらやみにきえていきました。
 朝になって、にいさんはすぐになやへいきました。
 中からカギがかかっているので、まどへよじのぼってとびこみました。
 するとワラの上に、いもうとのロザリーが下着一まいでたおれていました。
「ロザリー、おまえだったのか!」
 にいさんはロザリーをだきかかえると、家の中にはこびました。
「おい、みてみろ。これがドロボウかよ。これがロザリーにばけた娘かよ。ああ、あのとき戸をあけてやるんだった」
「ごめんね、ロザリー」
 おかみさんもこうかいして、ロザリーをベッドにねかせて、口にワインをながしこんであげました。
 ロザリーのほほに赤みがさし、やがていきをふきかえしました。
「よかった」
 ロザリーは、おそろしかったゆうべのことを、のこらずにいさんにはなしました。
「大事な妹にひどいことをするなんてゆるせない。あいつをやっつけるまでは、家にもどってこないぞ」
 にいさんはこのことをつたえに、二人のにいさんのところへいきました。
「それじゃ、ゆうべたずねてきた娘は、ロザリーだったのか」
 そこで三人そろって、ウービルのいる森へでかけました。
 三人はあたりに気をくばりながら、かくれるようにして、おくへとすすんでいきました。
 すると大きな木の下に、ウービルが大の字になってねむっていました。
「さあ、はやく木にのぼれ」
 一番上のにいさんがいいました。
 きょうだいはそっと木にのぼると、ねむっているウービルの頭めがけて、鉄砲(てっぽう)をかまえました。
「それっ!」
 かけ声とどうじに、いっせいに玉がとびだしましたが、ウービルは鉄砲の玉があたっても平気で、目をさましただけでした。
「おや? 木の上に朝ごはんがいる。さあ、おりといで」
 ウービルはおきあがって、木のみきをだきかかえると、ユサユサとゆさぶりました。
 きょうだいたちはひっしでふんばり、鉄砲をうちつづけました。
 それでもウービルは、大きな口をあけて、とんでくる玉をうまそうにのみこみます。
 ウービルはだきかかえていた木をひきぬき、ねもとから口の中へつめこみはじめました。
「ああ、もうおしまいだ! もう玉がない!」
 一番目のにいさんと二番目の兄さんは、あきらめて鉄砲をなげだしてしまいました。
 そのとき、三番目のにいさんは、おまもりがわりにもっている銀貨をおもいだしました。
 その銀貨を鉄砲につめ、
「神さま、どうかおたすけください」
と、いのると、ウービルのおなかめがけてうちこみました。
「ウギャアアアー!」
 ものすごいさけび声とともに、ウービルがドシンとたおれました。
「やった。ウービルをやっつけたぞ!」
 にいさんたちは、手をとりあってよろこびました。
 にいさんたちの知らせをきいて、ロザリーもとびあがってよろこびました。
「ありがとう。これでもう、安心してくらせるわ」
 ロザリーはにいさんたちにわかれをつげると、森のちっぽけな家にもどってきました。
 むかえてくれたのは、ウービルがはきだしたウマだけです。
 でも、ロザリーの一人ぐらしは、ながくはつづきませんでした。
 間もなくロザリーは、お金持ちの息子と結婚して、しあわせにくらしたのです。

おしまい

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