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8月25日の日本の昔話
はなよめになりそこねたネコ
むかしむかし、あるところに、観音様(かんのんさま→詳細)につかえているネコがいました。
ネコは人間の花嫁(はなよめ)を見るたびに、自分も美しい娘になって、人間のところへ嫁入りしたいものだと、いつも思っていました。
そこで観音様に、
「わたしを人間の嫁にしてください」
と、たのんだのです。
「よし、わかった。おまえはこれまで、わたしによくつかえてくれた。おまえならりっぱな花嫁になれる。わたしがいい若者を見つけてやろう」
観音様は、いつもお参りにくる若者の夢枕(ゆめまくら→夢の中)にたって、
「あすの夕方、お堂の前にいる娘を嫁にするがよい」
と、言いました。
若者はよろこんで、すぐにこのことを両親に話しました。
すると、信心深い(しんじんぶかい→神仏を思う気持ちが強いこと)両親もよろこんで、次の日の夕方、若者といっしょに観音堂へ出かけました。
観音堂の前には、すっかり人問の娘に化けたネコが立っています。
「あの娘ではないか?」
「あら、なかなかの器量よしだこと」
三人は娘のそばへ行きました。
「だれか、待っているのかい」
父親がたずねると、
「はい、観音様のおつげで、ここに待っているように言われました」
娘が、はずかしそうに答えます。
見れば見るほど美しい娘で、若者もこの娘が気に入りました。
「じつはわたしも、観音様のおつげで、ここにいる娘さんを嫁にするようにと言われたのです」
「えっ、そんな・・・」
娘が、ポッとほおをそめます。
「どうだろう。うちの息子の嫁になってもらえないだろうか」
父親の言葉に、娘はこっくりうなずきました。
「よかった。それじゃ、さっそく話をすすめたいが」
「では、わたしの両親にも会ってください」
娘は三人をつれて、観音堂の裏手(うらて)へ行きました。
そこには、古くてりっぱな屋敷があって、年老いた娘の両親がいました。
「なんともありがたいお話で。だが、ごらんのとおりの貧乏家で、娘にはなにもしてあげられません」
「いや、仕度(したく)のほうは、いっさいこちらでいたしますから、もう、娘さんさえいただければ」
若者の両親は古い屋敷を見て、むかしは相当な家柄(いえがら)にちがいないと思いました。
若者と両親がもどっていくと、娘の両親は、すぐにネコの姿にもどって屋敷を出て行きます。
りっぱな屋敷といっても、よくよく見たら、もう何年も人の住んでいない空き家で、野良ネコたちの住まいになっていました。
娘に化けたネコは、すぐ観音様のところへ報告(ほうこく)に行きました。
「おかげさまで、人間の花嫁になれそうです」
「おまえは、もう人間になったのだから、めったなことで、ネコのようなまねをするでないぞ」
さて、いよいよ婚礼(こんれんい→けっこんしき)の夜がやってきました。
約束どおり、若者の家では、花嫁の着物からカゴ(→詳細)まで用意して、娘をむかえにきました。
古い屋敷の前には明かりがつけられ、人間に化けた野良ネコたちがいそがしそうにはたらいています。
やがて花嫁が出てきて、カゴに乗りました。
花嫁行列は、ちょうちん(→詳細)の明かりにかこまれて、しずしずと進んでいきます。
(これで、もう思い残すことはないわ)
カゴの中のネコは、心から満足しました。
花嫁行列が花むこの屋敷につくと、すぐに座敷で祝言(しゅうげん→おいわいのことば)が始まりました。
花嫁になったネコは、花むこのとなりに座って、ウットリとしています。
おごそかな謡(うたい→おいわいの歌)とともに、三三九度の盃(さんさんくどのさかづき→お祝いのぎしきで、三つ組のさかづきで、三度ずつ、三回酒杯をいただくこと)がかわされ、花嫁が盃(さかづき)を口に持っていこうとした、そのときです。
ふいにおぜんの横へ、ネズミが出てきました。
そのとたん、花嫁は、
「ニャオーン!」
と、鳴くなり、ネコの姿になってネズミにとびついてしまったのです。
「なんだ、あれは!」
祝いの席に並んでいた人たちは、ビックリ。
花嫁の両親に化けていたネコや、人間になってついてきたネコたちも、すっかりあわてて、次つぎに、ネコの姿になって座敷をとび出していきました。
花嫁に化けていたネコは、どうすることもできず、ネズミをくわえたまま逃げだしました。
花むこや両親は、ぼうぜんとして、しばらく座っていましたが、すぐに花嫁の屋敷に向かいました。
ところが、観音堂の裏手には空き家になったボロ屋敷があるだけで、だれもいません。
「なんてひどい観音様だ!」
両親はカンカンにおこって、観音堂へは二度とお参りに行きませんでした。
花嫁になりそこねたネコに、観音様があきれていいました。
「あれほど、よく言い聞かせておいたのに。もう、ネコは決して、人間の嫁にはしない」
おしまい