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10月19日の日本の昔話

長ーい文字

長ーい文字

 むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん→詳細)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
 ある日のこと、和尚(おしょう→詳細)さんがとなり村の寺へ用足しに行ったのですが、なにやら浮かぬ顔で帰ってきました。
 和尚さんは、庭を掃除していた一休さんの顔を見るなり、
「おお、一休。今日、わしはえらいことをとなり村の和尚と約束してしもうての。おまえに知恵(ちえ)をかしてほしいのじゃ」
「はい、私でお役に立つことでしたら」
「そうか、いつもすまんのう。実は、となり村の和尚とせけん話をしておっての、そこでおまえの話がでたんじゃ。わしが『一休は知恵者じゃで、なんでも知っておるし、なんでもできる』と、言うたら、和尚め、『それやったら、一休に日本一長い文字を書いてもらおう』と、言いおった。わしも意地はってひき受けたんじゃが。・・・一休、おまえにできるかのう?」
「はあ。・・・仕方ありませんね。明日までになんとか考えてみます」
 次の日、一休さんはニコニコしながら、和尚さんのところへ行きました。
「和尚さん、日本一長い字を書きますから、隣り村のお寺へお使いを出して、あちらから、うちの寺まで紙をしきつめるように言うてください。それと、たらいに墨(すみ)をいっぱい。あと、竹ぼうきの筆を一本用意してください」
「おお、できるか! よし、わかった!」
 さて、用意ができたところで、一休さんは隣り村のお寺まで出かけて行きました。
 となり村の和尚さんは、
「まったく、こんなにたくさんの紙を用意させおって、書けるもんなら書いてみろ。ただし、もし書けなんだら、紙代を弁償(べんしょう)してもらうぞ」
「ご心配なく。それでは、私の筆についてきてください」
と、言うなり、竹ぼうきで作った太い筆に墨をたっぷりふくませ、つううううーっ、と、紙の上にまっすぐな線を走らせました。
 どこまでもどこまでも線はつづき、ようやく一休さんたちのお寺にとうちゃくしました。
「なんじゃあ、これは。ただの線ではないか。こんなものは文字とはいえん。さあ、約束通り、紙代を返してもらおう」
と、いうとなり村の和尚さんに、一休さんはニッコリ笑うと、今まで引いてきた線の最後をピンと右にはねて、
「はい、ひらがなの『し』でございます」
 これには、となり村の和尚さんも、返す言葉がありませんでした。

おしまい

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