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11月2日の小話
けちの親子
けちんぼうの親子がおりました。
ある日、いなかへ用事があって出かけると、とちゅうで親父が川へおっこちてしまいました。
むすこはあわててひきあげようとしましたが、むすこひとりの力ではあがりません。
まごまごしているところへ、お百姓がとおりかかり、
「むすこさん、百文(いまの価値で、三千円ほど)出すなら、わしが、ひきあげてやりましょう」
むすこは、生まれつきのけちですから、そのままたのむわけはありません。
「七十二文に、まけないか」
と、値切りますと、
「いや、百文でなけりゃあ、だめだ」
「では、七十三文でどうだ」
「いやいや、百文だ」
たがいにゆずらずにいいあっていますと、川の中で、いまにもおぼれそうにしている親父が、がぼがぼ水をはきだしながら、むすこに、
「そうだそうだ。おれが死んでもいいから、百文は出すな。まけさせろ」
おしまい