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7月9日の日本民話
  
  
  
  彦一とサクラの花
  岡山県の民話 → 岡山県情報
 むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
   あるとき、彦一の家のとなりに、ある村の長者(ちょうじゃ)が引っ越してきました。
   彦一はびんぼうでも花が好きで、ウメやサクラを大事に育てています。
   さて、何年かして、彦一が大切に育てたサクラが、かきねごしに枝を広げて見事な花を咲かせました。
   すると、長者がそれを見つけて、
  「かきねごしに出た花は、こっちのものじゃ。折(お)ろうとちぎろうと、わしのかってじゃ。文句はあるめえ」
  と、見事なサクラの木の枝を、ボキボキとへし折っていくのです。
  「ああっ。なんとかわいそうな事を」
   目の前で花を折られた彦一は、くやしくてたまりません。
   そこで、折られたサクラのかたき討ちを考えました。
   それからしばらくたった、月夜の晩の事です。
   彦一は自分の庭先に、ナベ、カマ、タライをならべて、にぎやかに叩きだしたのです。
   あまりのさわぎに、長者がビックリして家から出てきました。
  「やい彦一。気でもちがったか」
   そして、何をしているのかと、かきねのすきまから彦一の家をのぞき込んだそのときです。
   待ちかまえていた彦一が、大きな鉄のハサミで、チョイッと長者のダンゴ鼻をはさみつけたのです。
  「いててててえ! はなせ彦一。わしの鼻がちぎれる。こら、はなせ!」
  「いや、はなさん。かきねごしにでた鼻(花)は、こっちのもんじゃ。折ろうがちぎろうが、わしのかってじゃ。文句はあるめえ。さて、このきたない鼻では、あのサクラの花のかわりにもならんが、まあええ」
 そういって、長者の鼻を切り取ろうとしたので、長者は涙をポロポロ流しながら言いました。
「彦一、わしがわるかった。米を一俵(ぴょう)やるから、はなしてくれ」
「たったの一俵では、はなさん」
「なら、二俵やる」
「二俵でも、はなさん」
「ならば三俵。いや、四俵でどうだ」
 彦一は長者をさんざんいためつけたうえ、米を五俵も取り上げて、やっとはなしてやったという事です。
おしまい