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9月1日の日本民話
  
  
  
  ゆうれい屋敷
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 むかしむかし、江戸(えど→東京都)の深川(ふかがわ)に、幽霊(ゆうれい)が出るという屋敷がありました。
   広くてりっぱな屋敷なのですが、気味が悪くて誰もすもうとはしません。
   ところが、この話を聞いた一人の若い侍(さむらい)は、
  「そいつはありがたい。静かで、勉強にはもってこいだ」
  と、よろこんで、幽霊屋敷にひっこしてきました。
   さて、その晩、侍は奥の部屋で、
  「もうそろそろ、出てもよいころだが」
  と、待っていると、まもなく女のすすり泣きの声が聞こえてきました。
  「よし、おいでなすったな」
   侍はローソクを持って、屋敷中の部屋を調べましたが、どこの部屋にもあやしいものはなく、ただ、シクシクと泣く声が聞こえるだけです。
  「なんだ、声だけのゆうれいか。つまらんな。 ・・・うん?」
   侍が、ふとかべを見ると、かべには二つのかげがローソクの光にゆれています。
   一つはたしかに自分のかげですが、もう一つはどうやら女の人のかげのようです。
   自分が歩けば女のかげも歩き、自分が止まれば女のかげも止まります。
   奥の部屋にもどると、女のかげもシクシク泣きながらついてきました。
  「おい、幽霊さん。そう泣いてばかりおらんで、姿をあらわしたらどうだね」
   侍が声をかけると、スーッと、侍の前に一人の女が現れました。
   よく見てみると、その女の顔には目がありません。
  「いや、よくでてくれた。せっかくだからお茶でも飲もう。すまんが、お茶でもいれてくれんか」
   女の幽霊は、だまってカガミの前にいきました。
  (なるほど。幽霊でも、やっぱり女。身だしなみは、せにゃいかんな)
   幽霊は髪の毛をといて、ほんのり口紅をつけると、お茶を入れて持ってきました。
   そしてお茶を侍の前におくと、スーッとそのまま消えてしまいました。
   次の晩。
   幽霊は夜中になると、部屋の中にスーッと入ってきました。
   そして部屋のすみで、ジッと立っています。
   それに気がついた侍は、幽霊に言いました。
  「幽霊とはいえ、礼儀(れいぎ)をまもりなさい。人の部屋に入るときは、ちゃんと声をかけなさい」
   すると幽霊は、はずかしそうに、
  「はい」
  と、いったきり、スーッと消えてしまった。
   その次の晩、侍は用があって、おそくにかえってきました。
   部屋の中に入ると、幽霊が部屋のまん中で寝ています。
  「ほほう、あんまりおそくなったので、まちくたびれたとみえるな」
   侍は、すずり箱をとりだすと、筆にすみをつけて、
  (どれ、毎晩きてくれるお礼に、目をかいてしんぜよう)
  と、寝ている幽霊の顔に、きれいな目を二つ書いてやりました。
   そして、
  「おいおい、幽霊さん、いまかえってきたよ。今日はどうも肩がはってならん。すまんが、ちょいとたたいてもらおうか」
  と、声をかけると、幽霊はビックリしておきあがり、いつものようにカガミの前へ立ちました。
   そのとたん、
  「キャーッ!」
  と、ビックリした声をあげて、パッと消えてしまいました。
 それっきり屋敷には、幽霊は出なくなったという事です。
おしまい