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7月20日の世界の昔話
スイショウの国の妖精
ギリシアの昔話 → ギリシアの国情報
むかしむかし、あるところに王さまがいました。
王さまには、三人の王子と、三人の王女がありました。
王さまは、王子も王女もたいそうかわいがっていました。
あるとき、王さまはおもい病気にかかりました。
王さまは、三人の王子をまくらもとによんで、
「王子たちよ。おまえたちにたのみたいことがある。これから王女に、結婚を申しこんでくるものがあるだろう。王女さえ気にいったら、ぜひ、そのものと結婚させてやっておくれ。いいね。王女が三人とも結婚してから、おまえたちはお嫁さんをもらうのだよ」
と、いいました。
王子たちは、
「お父さんの、いうとおりにします」
と、やくそくしました。
王さまは、三番目の王子にむかって、
「わたしは、小箱の中に妖精(ようせい)を一人しまっておいた。にいさんたちが結婚してしまったら、おまえはその小箱をあけて、妖精と結婚しなさい」
と、いいました。
それからまもなく、王さまはなくなりました。
王子たちも王女たちも、たいそう悲しみました。
それから、いく日かすぎたある日。
トントントン。
お城をたずねてきたものが、あります。
「だれですか?」
と、王子たちがたずねました。
「おれさまはライオンだ。一番上の王女に、結婚を申しこみにきた」
「あなたのうちは、どこですか?」
と、王子たちが聞きました。
「おれのうちか? おれさまなら五日でいけるところにあるが、人間じゃ、そこまでいくのに五年はかかるだろうな」
と、ライオンは大声でいいました。
「五年ですって! そんな遠いところへ、妹をお嫁にやることはできません。妹が病気になっても、みまいにいってやることもできないじゃありませんか」
と、年上の二人の王子ははんたいしましたが、ところが三番目の王子が、
「にいさん。妹をライオンにあわせてみなくてはいけませんよ」
と、いって、一番上の王女の手をとって、ライオンの前につれていきました。
すると一番上の王女は、ライオンが気にいりました。
三番目の王子は、
「妹よ、おまえさえよかったら、ライオンといっしょにいきなさい」
と、いいました。
二人の王子は、さいごまではんたいしましたが、ライオンは妹をつれていってしまいました。
つぎの日、トラがやってきました。
「なにか、ご用ですか?」
と、王子たちが聞きました。
「二番目の王女に、結婚を申しこみにきたのさ」
と、トラがこたえました。
「あなたのうちは、どこですか?」
「わしのうちまでは、わしの足なら十日、人間どもなら、十年はかかるだろうな」
「とんでもない! そんなところへ、妹をお嫁にやれるものですか。病気になっても、みまいにいってやることもできないじゃありませんか」
と、上の二人の王子ははんたいしましたが、またもや三番目の王子が、
「妹をトラにあわせてみましょう。気にいったら、トラのところにいかせなくてはいけませんよ」
と、いって、二番目の王女をトラの前につれていきました。
トラと二番目の王女は、すっかり気があいました。
それを見て、三番目の王子は、
「きっとしあわせになれるでしょう。トラといっしょにいきなさい」
と、いって、上の二人の王子がとめるのも聞かずに、二番目の王女をトラにやりました。
そのあくる日、ワシがやってきました。
「三番目の王女を、お嫁にください」
と、ワシはいいました。
「あなたのうちは、どこですか?」
「わたしのうちへいくには、わたしなら十五日、人間なら十五年はかかるでしょう」
「そんな遠くへ、妹をやれるものですか!」
と、上の二人は三番目の王女をかくしましたが、三番目の王子は王女の手をとって、ワシのところにつれていきました。
ワシと王女は、すぐなかよしになりました。
王女たちが三人ともお嫁にいってしまうと、こんどは王子たちがお嫁さんをもらいました。
はじめに、一番上の王子が、つぎに、二番目の王子が結婚しました。
いよいよ、三番目の王子の番がきました。
三番目の王子は、王さまにいわれたとおりスイショウの小箱をあけて、妖精をお嫁さんにしようと思いました。
ところが妖精は、王子がスイショウの小箱のあけたとき、王子の手からスルリとにげてしまいました。
「あっ、まってくれ」
王子は、妖精のあとを追いました。
すると妖精は、
「ダイリセキの山をこえて、スイショウの牧場へいらっしゃい。まっています」
と、いって、見えなくなってしまいました。
「ダイリセキの山? スイショウの牧場?」
そんな名まえの山も牧場も、聞いたことがありません。
王子は妖精の見えなくなったほうへ、テクテクと歩いていきました。
王子は、五年のあいだ歩きつづけました。
すると、ライオンの家にきました。
トントントン。
王子が戸をたたくと、おくから、一番上の王女がでてきました。
「まあ、にいさん。よくきてくださいました。おにいさんのおかげで、わたくしはとてもしあわせですわ」
ライオンのおくさんになった王女は、王子をむかえて喜びました。
夕方になりました。
「もうじき、ライオンが帰ってきます。にいさん、ちょっとしんぼうしていてね」
と、いって、王女は王子の肩をポンとたたきました。
すると王子は、たちまちほうきになってしまいました。
王女はそのほうきを、戸口に立てかけました。
まもなく、
「やや、人間のにおいがする」
と、ほえながら、ライオンが帰ってきました。
王女は、
「あら、きっと気のせいですわ」
と、こたえて、夕ごはんのしたくをはじめました。
「わたしの一番上のにいさんがここへきたら、あなたはどうなさいますか?」
と、王女がライオンにたずねました。
「ズタズタに、ひきさいてやる!」
と、ライオンはこたえました。
「じゃ、二番目のにいさんがきたら?」
「こまぎれにして、くってやる! ・・・ああ、腹がへった。はやくなにかくわせてくれ」
王女は、すぐにごちそうをならべました。
「じゃ、三番目のにいさんがきたら?」
「なんだと。三番目のにいさんだって? あのにいさんなら大好きだ。ていねいにむかえてやるよ」
これを聞くと、王女は戸口に立てかけておいたほうきをポンとたたきました。
ほうきは、王子になりました。
ライオンは両手をひろげて王子をむかえ、心から喜んでもてなしました。
「ライオンさん。ダイリセキの山をこえた、スイショウの牧場って知っていますか?」
と、王子はたずねました。
「いいや、知らないね。だが、あしたの朝、けものたちをみんな集めるから聞いてみよう」
と、ライオンはやくそくしました。
あくる朝、ライオンはけものたちにたずねました。
でも、だれ一人、ダイリセキの山とスイショウの牧場を知っているものはありません。
王子はライオンの家をでて、またテクテクと歩いていきました。
五年のあいだ歩きつづけて、トラの家につきました。
「まあ、よくきてくださったわ」
と、いって、二番目の王女が王子をむかえいれました。
「ちょっと、しんぼうしていてください。トラが帰ってきますから」
二番目の王女は、王子の肩をポンとたたくと、王子は紙くずかごになりました。
「クンクン。人間のにおいがするぞ」
と、トラが帰ってきました。
「気のせいでしょう」
と、王女はいって、夕食のしたくをしました。
「わたしの一番上のにいさんがここへきたら、あなたはどうなさるの?」
と、二番目の王女がトラに聞きました。
「ズタズタに、ひきさいてくれる!」
「では、二番目のにいさんがきたら?」
「こまぎれにして、くってやる! ・・・ああ、腹がへった」
王女は、すぐにごちそうをならべました。
「三番目のにいさんがきたら?」
と、王女がたずねました。
「そりゃ、うれしいね。喜んでもてなしをするよ」
これを聞いて、王女は紙くずかごをポンとたたきました。
紙くずかごは、王子になりました。
トラは王子を見て、たいそう喜びました。
王子は、
「ダイリセキの山と、スイショウの牧場を知っていますか?」
と、たずねました。
「知らないね。だが、あした動物たちが集まるから、聞いてみよう」
あくる朝になりました。
けれども、ダイリセキの山とスイショウの牧場を知っているものは、一人もいません。
王子はまた、歩きはじめました。
そして五年たつと、王子はワシの家につきました。
「まあ、まあ、よくきてくださいました」
こういって、ワシのおくさんになっている、三番目の王女が王子をむかえいれました。
まもなく、ワシが帰ってきました。
「やあ、にいさんですか。おかげでわたしはしあわせです」
と、ワシは王子に、お礼をいいました。
王子は、ダイリセキの山とスイショウの牧場のことをたずねました。
「聞いたことがありませんね? でもまってください。タカばあさんなら、知っているかもしれません」
と、いって、ワシはさっそく、タカばあさんにたずねてくれました。
タカばあさんは、
「ああ、知っていますとも。ついていらっしゃい」
と、いって、あんないしてくれました。
それは、ながいながい旅でした。
タカばあさんといっしょに、王子はどれだけ歩いたことでしょう。
王子のはいていた鉄のくつは、穴があいてボロボロになりました。
そしてようやく、ダイリセキの山をこえて、スイショウの牧場につきました。
そこは、妖精の国でした。
たくさんの妖精たちにかこまれて、きれいなきものをきた、とくべつ美しい妖精が一人立っていました。
スイショウの小箱にいた、あの妖精です。
妖精がニッコリ笑うと、あたりがあかるくなりました。
「やっぱり、きてくださいましたのね。あなたは正直で、勇気のある方です。あなたのお嫁さんになりましょう」
ようやく王子は、妖精と結婚することができました。
王子は花よめをつれて、国へ帰っていきました。
スイショウの牧場では、妖精たちが王子と妖精の花よめを、いつまでもいつまでも見送っていました。
おしまい