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9月10日の世界の昔話
ナシ売りと仙人
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むかしむかし、ある町の道ばたで、一人の男が車につんだナシの実を売っていました。
「さあ、甘いナシ。おいしいナシ。買ってください」
みんなが集まってきて、何個か売れたころ、ふと、一人のおじいさんが出てきました。
ボロボロの着物を着て、肩にかついだクワに、小さなつつみを一つぶらさげています。
ナシ売りのそばまでくると、おじいさんはていねいにおじぎをして、
「のどがかわいて困っています。お願いですから、そのナシを一つくださいませんか」
と、いいました。
でも、ナシ売りは、
「ふん! バカなことをいうんじゃない。一つだってやれるもんか!」
おじいさんがションボリしていますと、見ていた人たちの中の一人が、サイフからお金を取り出して、
「ナシ売りよ。わたしが払ってやるから、おじいさんにあげておくれ」
と、いいました。
するとナシ売りは、一番小さいナシをより出して、おじいさんに渡しました。
「どうも、ありがとうございます」
おじいさんはナシを受け取ると、お金を出してくれた人にあいさつをしました。
「このお礼に、これからわたしが、みなさんにおもしろい物を見せましょう」
そういっておじいさんは、ナシの実をムシャムシャと食べてしまいました。
そして残ったタネを、すぐそばの土の中へうめました。
「さあ、このタネに水をかけると、すぐ木になって実がなりますよ」
それを聞くと、みんなが笑いだしました。
「このおじいさんは気が変じゃあないのか。タネをまいて木になって、実がなるまでには何年もかかるのに」
おじいさんは、どこかからツボを持ってきて、そのツボの水を土の上にふりかけるとこういいました。
「天の神さま、土の神さま、タネから芽を出させてください。すぐに出させてください」
すると、みるみるうちに、土の中から芽が出てきて、緑の葉が開きました。
「おおっ!」
見ていたみんなはビックリです。
「続いて、花を咲かせます」
おじいさんが、ナシの芽にツボの水をふりかけると、ナシの芽はグングンのびて、太い木になりました。
そして、枝につぼみがいっぱいついたかと思うと、パッ、パッ、パッと、まっ白い花がさきました。
やがて花がちってしまうと、そのあとにたくさんの実がなりました。
「さあ、みなさん、食ベてください」
おじいさんはそういって、ナシの実をもぎ取ると、みんなに一つずつくばりました。
「ほう、これはうまいなあ」
みんな大喜びです。
「ではみなさん、わたしはこれから遠くへいくので、このナシの木は持っていきます」
と、クワで土をほってナシの木を引きぬくと、やがて、どこかへいってしまいました。
「ふしぎなおじいさんだなあ」
「あれはきっと、仙人だよ」
「そうだ、仙人にちがいない」
みんなが話しているうちに、欲ばりのナシ売りは、はずかしそうにコソコソ逃げていきました。
おしまい