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しあわせの王子
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むかしむかし、ある町には、美しい『しあわせの王子』の像(ぞう)がありました。
その『しあわせの王子』の体には、金色に光かがやく金ぱくが貼ってあります。
青いひとみはサファイアで、腰の剣には大きいルビーがついています。
町の人たちは、このすばらしい王子のようにしあわせになりたいと願いました。
冬が近づいてきた、ある寒いタ方の事です。
町に、一羽のツバメが飛んで来ました。
「ふうーっ。ずいぶんと、遅れちゃったな。みんなはもう、エジプトに着いたのかなあ? 今日はここで休んで、明日旅に出よう」
ツバメはしあわせの王子の足元にとまり、そこで眠ろうとしました。
するとポツポツと、しずくが落ちてきました。
「あれれ、雨かな? 雲もないのに、変だな。・・・あっ、王子さまが泣いている。もしもし、どうしたのですか?」
ツバメがたずねると、王子が答えました。
「こうして高い所にいると、町中の悲しい出来事が目に入ってくるんだ。でもぼくには、どうする事も出来ない。だから泣いているんだよ」
「悲しい出来事?」
「ほら、あそこに小さな家があるだろう。子どもが病気で、オレンジが食べたいと泣いている。お母さんは一生けんめい働いているが、貧しくて買えないんだ」
「それは、お気の毒に」
「ツバメくん、お願いだ。ぼくの剣のルビーを、あそこへ運んでおくれよ」
「うん。わかった」
ツバメは王子の腰の剣のルビーをはずして、熱で苦しんでいる男の子のまくらもとにルビーを置きました。
「つらいだろうけど、がんばってね」
ツバメはつばさで、男の子をそっとあおいで帰ってきました。
王子のところへ帰ってきたツバメは、ある事に気づきました。
「不思議だな。こんなに寒いのに、なんだか体がポカポカするよ」
「それは、きみが良い事をしたからさ。ツバメくん」
次の日、王子はまたツバメに頼みました。
「ぼくの目のサファイアを一つ、才能のある貧しい若者に運んでやってくれないか?」
「でもぼく、そろそろ出発しなくちゃ」
「お願いだ。きょう一日だけだよ。ねえ、ツバメくん」
「・・・うん」
ツバメがサファイアを運んでやると、若者は目を輝かせて喜びました。
「これでパンが買える! 作品も、書きあげられるぞ!」
次の日、ツバメは今日こそ、旅に出る決心をしました。
そして王子に、お別れを言いました。
「王子さま。これからぼくは、仲間のいるエジプトに行きます。エジプトはとてもあたたかくて、お日さまがいっぱいなんです」
けれど王子は、また頼みました。
「どうか、もう一晩だけいておくれ。あそこで、マッチ売りの女の子が泣いているんだ。お金をかせがないとお父さんにぶたれるのに、マッチを全部落としてしまったんだ。だから残ったサファイアを、女の子にあげてほしいんだ」
「それでは、王子さまの目が見えなくなってしまいますよ」
「いいんだ。あの子がしあわせになれるのなら、目が見えなくとも」
「王子さま・・・」
人のしあわせのために自分の目をなくした王子を見て、ツバメは決心しました。
「王子さま、ぼくはもう旅に出ません。ずっと、おそばにいます。そして、王子さまの目の代わりをします」
「ツバメくん。ありがとう」
それからツバメは町中を飛び回り、貧しい人たちの暮らしを見ては王子に話して聞かせました。
「それでは、ぼくの体についている金を全部はがして、貧しい人たちに分けてくれないか」
「わかりました」
ツバメは言いつけ通り王子の体から金ぱくをはがすと、貧しい人たちに届けてやりました。
やがて、空から雪がまい落ちてきました。
とうとう、冬がきたのです。
さむさに弱いツバメは、こごえて動けなくなりました。
「ぼくは、もうだめです。王子さま、さようなら。良い事をして、ぼくはしあわせでした」
ツバメは最後の力で王子にキスをすると、そのまま力つきて死んでしまいました。
パチン!
その時、王子の心臓(しんぞう)が悲しみにたえかねて、はじけてしまいました。
次の朝、町の人たちはしあわせの王子の像が、すっかり汚くなっているのに気づきました。
「美しくない王子なんか、とかしてしまおう」
ところが不思議な事に、王子の心臓だけはどんなにしてもとけませんでした。
そこで王子の心臓は、そばで死んでいたツバメといっしょにすてられました。
そのころ、神さまと天使(てんし)がこの町へやってきました。
「天使よ。この町で一番美しい物を持っておいで」
神さまに言いつけられて天使が持ってきたのは、王子の心臓とツバメでした。
それを見て、神さまはうなずきました。
「よくやった。これこそが、この町で一番美しい物だ。王子とツバメは、大変良い事をした。この二人は、天国に連れて帰ってやろう」
こうして人々を助けるために死んだ王子とツバメは、天国でしあわせに暮したのです。
おしまい
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