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11月9日の世界の昔話
クジャクのはなび
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むかしむかし、ある森のなかに仙女(せんにょ)がすんでいました。
この仙女は、からだの半分が人間で、あとの半分がクジャクのすがたをしている魔法使いです。
森のなかまたちは、この仙女のことを「クジャク仙女」とよんでいました。
クジャク仙女は、暑い夏の日には大きな羽をマントのようにひろげて、太陽の強い光をさえぎり、寒い冬の日には、そのみごとな羽で、すっぽりと森をつつみます。
そのおかげで、森はいつも春のようです。
おまけに、クジャク仙女のからだから虹(にじ)の噴水(ふんすい)のようにふきでるふしぎな光をあびて、森はいつもキラキラとかがやいていました。
どんなにおそろしいトラやライオンも、仙女がひと声さけぶと、コソコソとにげていきます。
なんともすばらしい仙女です。
小鳥も、チョウも、けものたちも、みんな仙女が大すきでしたが、とりわけ森にすむクジャクたちは、
「あの仙女さまのように美しく、りっぱになりたいものだね」
と、話しあっていました。
「でもどうすれば、クジャク仙女のような、ふしぎな力をもつことができるのだろう?」
すると、一羽のクジャクがいいました。
「そんなことかんたんさ。仙女さまから、魔法を教えてもらえばいいじゃないか」
「そうだ。そうだ。さっそく教えてもらおう」
クジャクたちはさきをあらそって、仙女のところへとんでいきました。
そして口々に、
「おねがいです。どうか、魔法を教えてください」
と、さわぎたてました。
クジャク仙女は、高い岩の上からクジャクたちを見おろしていましたが、やがて美しい声でいいました。
「今夜の三時に、ここへあつまりなさい。おまえたちのなかから、一番すぐれたものを弟子にしましょう」
クジャクたちは、ワイワイさわぎながら帰っていきました。
そして、からだや頭に花かざりをつけたり、水浴びをして、からだをきれいにするのでした。
どのクジャクも、
「自分が一番りっぱなクジャクだ!」
と、思っているようです。
けれども一羽、自分のすがたを川の水にうつしては、ためいきをついているクジャクがいました。
「ああ、ぼくなんて、とても仙女さまのお弟子さんになれっこないや」
そのクジャクは生まれつき、からだが小さくて、羽も黒くよごれていました。
どんなにあらっても、きれいになりません。
「クジャクのくせに、きたないやつ。やーい、チビクロ!」
と、みんなからバカにされて、ろくに遊んでもらえません。
「つまらないや」
チビクロはためいきをついて、フラフラと森の外へとんでいきました。
「わあっ!」
森の外へ出たとたん、チビクロはクラクラと目がまわり、ストンと地面に落ちてしまいました。
太陽がギラギラとかがやき、燃えるようなあつさです。
そのとき、
「たすけてくれ!」
と、いう声がしました。
見ると、人間のおじいさんが、グッタリとたおれています。
あまりのあつさに、病気になってしまったのでしょう。
チビクロは、いそいでしっぽの羽をぬいて、それでせんすをつくってあげました。
チビクロがせんすであおぐと、ふしぎなことに、さあっとすずしい風がふいてきて、おじいさんはたちまち元気になりました。
「しんせつなクジャクさん。どうもありがとう」
チビクロはうれしくなって、またドンドンとんでいきました。
しばらくいくと、おばあさんがオイオイと泣いています。
「どうしたの?」
チビクロがたずねると、おばあさんはいいました。
「いま、きゅうに風がふいてきて、目に砂ぼこりがはいって、なにも見えなくなってしまったんだよ」
「それはたいへん!」
チビクロはやわらかい羽をぬいて、おばあさんの目を、そっとなでてあげました。
すると、どうでしょう。
おばあさんの目が、パッチリとひらいたではありませんか。
「あれえ!」
ビックリしたのは、チビクロのほうでした。
こんなにかんたんに、おばあさんの目がなおるとは思わなかったからです。
チビクロはうれしくて、またドンドンとんでいきました。
そのままドンドンとんでいくと、一軒の小屋がありました。
その小屋のなかから、おじいさんと男の子が出てきていいました。
「クジャクさん。はやくにげなさい! こんなところにいると、王さまの兵隊がつかまえにくるよ」
「え? 兵隊がぼくをつかまえるって? どうしてさ」
「王さまがわしに、クジャクの羽で馬車(ばしゃ)のほろをつくるように、ご命令なさったのだ」
「クジャクの羽で、ほろだって?」
「そうだ。わしは馬車づくりの職人だ。しかしクジャクから羽をむしりとってほろをつくるなんて、そんなむごいことはわしにはできん」
「それで、どうしたの?」
「それでわしは王さまに、馬車のほろをこしらえることをことわった。すると王さまはカンカンにおこって、わしをろうやに入れるというのだ」
「それじゃ、早くにげたらいいのに」
「だめだ。いまに兵隊がやってくる。わしはつかまえられてもいいが、おまえさんは森へ帰ったほうがいい。森のクジャクたちにも、兵隊がクジャクがりにくることをつたえるがいい。さあ、いそいで!」
おじいさんの話をきいたチビクロは、からだの羽をぜんぶぬいて、おじいさんにわたしました。
「こんなによごれている羽ですが、どうぞ使ってください。ぼくの羽で、馬車のほろをこしらえてください。それで、おじいさんが助かるのなら、そして、ほかのクジャクたちが助かるのなら。ではさようなら。おじいさん」
羽のなくなったチビクロは、ピョンピョンとかけだしました。
まるはだかになったけれども、チビクロはすこしもさむくありません。
チビクロのおかげで、あのおじいさんたちは、しあわせにくらすことができるでしょう。
そう思うと、心もからだもポカポカと、あたたかくなってくるのでした。
そのうちに日がくれて、夜になりました。
くらい道のむこうに、ポツンとあかりが見えます。
近づいてみると家が立っていて、中から女の子とお母さんの話し声がします。
チビクロは、そっとまどをのぞいてみました。
ランプの光の下にベッドがあって、そこに病気の女の子がねています。
「おかあさま。おまつりには花火があがるでしょう。わたし、花火を見たいの。はやく、おまつりがこないかしら」
「もうすぐよ。元気になって、いっしょに花火を見に行きましょうね」
お母さんは、そっとなみだをふきました。
チビクロは、病気の女の子をなぐさめてあげたいと思いました。
けれども、チビクロにはどうすることもできません。
ションボリ森へ帰ると、ほかのクジャクたちがチビクロを見つけて、コソコソ悪口をいいました。
「あいつを見ろよ。羽が無くてまるはだかじゃないか」
「ほんと、みっともない」
「そうだ、クジャクのくせにみっともないすがたをするな! あっちに行け!」
「おまえなんか、死んでしまえ!」
チビクロははずかしくて、顔をまっ赤にして岩のかげにかくれました。
やがて、夜中の三時になりました。
さっと、ひとすじの光がさしてきて、それがあっというまに七色の光になり、くらい空にかがやきわたりました。
「あっ、仙女さまだ!」
クジャク仙女が、山の上に立っていました。
クジャクたちは、仙女の前にかけよりました。
さあ、だれが仙女の弟子にえらばれるのか、みんなはドキドキして、クジャク仙女を見あげました。
すると仙女は、岩のかげに小さくなってふるえている、はだかのクジャクをやさしくだきあげたのです。
「おまえは、人のために自分をぎせいにしました。おまえは、とてもすばらしい心を持っています。おまえこそ、わたしの弟子です」
仙女は、ニッコリ笑っていいました。
「さあ、わたしの弟子よ。病気の女の子のところへ行って、あの子をなぐさめておやりなさい」
すると、はだかのチビクロに七色のきれいな羽がはえてました。
そしてチビクロは、まっすぐ空にまいあがると病気の女の子の家にいき、美しい花火のように光かがやいたのです。
おしまい