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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > ドロボウの名人 イギリスの昔話

2008年 6月30日の新作昔話

ドロボウの名人

ドロボウの名人
イギリスの昔話イギリスの情報

 むかしむかし、あるお百姓さんに、ジャックという一人息子がいました。
 ジャックは畑仕事が大きらいで、いつもあそんでばかりいました。
 ある日、お百姓さんはジャックに言いました。
「いつまでもあそんでばかりいないで、旅に出て、自分に合う仕事でも探してきたらどうじゃ」
 ジャックはさっそく、仕事を探しに旅に出かけました。
「さて、すっかり暗くなったし、お腹も空いてきた。どこかに、とめてくれるところはないかな?」
 すると運よく、森の中に一軒の家を見つけました。
「こんばんは」
 ジャックが入り口のドアを開けると、家の中におばあさんがすわっていました。
「なんか用かね?」
「はい、今夜とめてほしいのです」
「とめるなんて、とんでもない」
「どうして?」
「ここは、どうぼうの家なんじゃよ。おそろしいのが六人もいてな。今はるすじゃが、帰ってきたら何をされるかわからんぞ」
「そいつはちょうどいいや。おれはどろぼうの親分になりたくて、子分をさがしていたんだ。とめてもらうよ」
 ジャックはおばあさんにごちそうを作らせると、それを腹一杯食べて、グウグウと眠ってしまいました。
 朝になってジャックが目をさますと、すごい顔つきをした男たちが六人、ベッドの回りに立っていました。
 でもジャックは少しもあわてず、男たちに言いました。
「やあ、やあ、みなさん。おはよう」
「やい、やい、てめえはだれだ! 何しにきた!」
 どうぼうのかしらがどなりました。
「おれは、どろぼうの親分さ。役に立つ子分をさがしにやってきたのさ。お前たち、おれの子分にならないか?」
 男たちはびっくりしましたが、すぐにかしらが言いました。
「ふん、おもしれえやつだ。おれとてめえと、どっちがどろぼうの親分にふさわしいか、腕くらべをしようじゃねえか」
「よし、いいだろう」
 ジャックはいせいよく、ベッドからとびおりました。
 ちょうどその時、お百姓さんが、やぎをつれて通りかかりました。
 それを見たジャックが、どろぼうたちに聞きました。
「あの男が森を通りぬける前に、あの男に乱暴をしないで、やぎを盗んでこられるか?」
「そいつは、むりだ」
「おれにも、できねえ」
 どろぼうたちは、首を横にふりました。
「それなら、おれがやってみせよう」
 ジャックは先回りすると、道のまん中に自分の右のくつを脱いで置きました。
 それから、もう少し先の方に、左のくつを置いて隠れました。
 そこへ、やぎを引いたお百姓さんが通りかかりました。
 お百姓さんは、落ちている右のくつを見つけましたが、
「片方だけじゃ、使い物にならねえな」
と、言いながら、通りすぎました。
 そして少し行くと、左のくつを見つけました。
「おや? さっきのくつをひろってくれば、ちゃんと一足そろうぞ。これはもうけた。ひろってこよう」
 お百姓さんは、近くの木にやぎをつなぐと、今きた道をもどって行きました。
「しめしめ」
 出てきたジャックは、左のくつを拾うとはきました。
 いつの間に拾ってきたのか、右のくつもはいています。。
 こうしてジャックはやぎを手に入れて、どろぼうの家へ帰りました。
 これには、どろぼうたちもびっくりです。
 次の朝。
 あのお百姓さんが、今度は牛をつれてやってきました。
 ジャックは、どろぼうたちにまた聞きました。
「どうだ、お前たち。あの太った牛を、乱暴しないでうまく盗めるか?」
 どろぼうたちは、みんな首をよこにふりました。
「よし、それならおれがやってみせる」
 ジャックは、昨日ぬすんだやぎをつれて、出かけて行きました。
 お百姓さんが、昨日の場所にさしかかると、やぎの声がします。
「おや? この鳴き声は、昨日いなくなった、うちのやぎの鳴き声だ」
 メエー、メエー。
 やぎの声は、そんなに遠くありません。
「ありがてえ。うちのやぎのやつ、どこかで迷子になったんだな」
 お百姓さんは牛を木につなぐと、やぎの声のする方へかけて行きました。
 そのすきに、ジャックは木につないだ牛を手に入れたのです。
 ジャックが牛とやぎをつれてもどってきたのを見て、どろぼうたちは声をそろえて言いました。
「ジャックは、おれたちの親分だ!」
 こうして六人のどろぼうたちは、ジャックの子分になることをちかいました。
 そして、今までに盗んだお金や宝物のかくし場所を、ジャックに教えました。
 それから何日かして、六人のどろぼうたちはジャックの命令で、どろぼうの仕事に出かけて行きました。
「しめしめ、今のうちだ」
 どうぼうたちがいなくなると、ジャックは宝のかくし場所へ行きました。
 そして、お金や宝物を袋につめこみました。
 それからジャックは、留守番のおばあさんにたくさんのお金をやって、どろぼうの家から逃がしてやりました。
 またジャックは、牛とやぎを、お百姓さんに返してやりました。
 やぎの首に、お礼とお詫びの金貨を十枚入れた袋をつけて。
 こうして大金持ちになったジャックは、宝の袋をかついで家へ帰りました。
 お父さんはたくさんのお金と宝を見てびっくりしましたが、ジャックからわけを聞いて安心しました。
 ある時、ジャックがお父さんに言いました。
「父さん、地主さんに、娘をおれのお嫁さんにほしいと話してきてよ」
「とんでもない! 村一番の金持ちの地主さんに、そんなことが言えるか」
「でも、お金だったらおれだって、たくさん持っているじゃないか」
「それはそうだが、その金はどうしたと聞かれたらどうする?」
「その時は、ジャックは世界一のどろぼうの名人で、どろぼうからどろぼうしてきたと、正直に言えばいいさ。別に、普通の人からどろぼうした訳じゃないんだから」
「うーん」
 しかたなく、お父さんは出かけました。
 そして間もなく、帰ってきました。
「どうだった、父さん」
「ああ、今度の日曜日、丸焼きにしているガチョウを盗むことができたら、娘さんをお前にくれるといっていたぞ」
「あはは。そんなことならわけないよ」
 さて、その日曜日、地主さんの家族はみんな台所にあつまって、ガチョウが焼けるのを待っていました。
 その時ドアがあいて、袋を背負った老人がのぞきこみました。
「何か、おめぐみください、だんなさま」
「後でな。食事がすむまで、外でまっておれ!」
 地主さんが言うと、老人は顔を引っこめました。
と、その時です。
 窓のそばにいた召使いが外を見て、大声でさけびました。
「だんなさま! 庭にウサギが一匹いますよ。捕まえてきましょうか?」
「そんなもの、ほうっておけ」
「あっ、もう一匹、飛び出してきたぞ」
「いいから、ほうっておけ」
 そこへ、もう一匹ウサギがとび出してきました。
「わあっ、三匹も! ああっ、四匹目だ! あああっ、五匹目も!」
「なに、五匹もいるのか。よし、みんなで捕まえろ!」
 地主さんの命令に、台所にいた者はみんな、庭へとび出して行きました。
 実は、さっきの袋を背負った老人はジャックの変装で、袋に入れていたウサギをジャックが庭に放したのです。
「ええい、なにをしておる! ウサギは回り込んで捕まえるのだ!」
 なかなかつかまらないウサギに、地主さんはイライラしていましたが、ジャックにガチョウを盗まれては大変なので、ガチョウのそばを離れることができません。
 そこへ、老人に化けたジャックが外から声をかけました。
「だんなさま、まだ、おめぐみはいただけないのですか?」
「ああ、ちょうどいい。この銅貨をやるから、しばらくガチョウを見張っていてくれ。いいか、だれも台所へ入れるんじゃないぞ!」
「はい。かしこまりました」
 しばらくたってから、ようやくウサギを捕まえたみんなが台所へもどってくると、丸焼きのガチョウも老人も、見事に消えていました。
「しまった! あの老人はジャックだったか。うまくしてやられたわい」
 そこへ、ジャックからの使いがきました。
 地主さんと家族のみんなを招待して、ごちそうをしたいというのです。
 行ってみると、いろいろなごちそうと一緒に、あのガチョウの丸焼きも出ていました。
 地主さんは、苦笑いしながら言いました。
「ジャック、もう一度勝負だ。今夜、うちの馬を五頭ぬすんでみろ。できたら娘をやろう」
「おやすいごようです」
 地主さんは馬一頭に一人ずつ、見張りをつけました。
「これなら、ジャックも手が出せまい」
 この日は、とてもさむい夜でした。
 男たちはブルブルふるえながら、馬を見張っていました。
 そこへ、おばあさんに変装したジャックがやってきました。
「ああ、さむいねえ、さむくてこごえ死んでしまうよ。ねえ、あんたたち、馬小屋のすみっこでもいいから、一晩寝かしておくれよ」
「いいとも」
「ところでみなさん、いかがです。こんな寒い晩は、これがなによりで」
 おばあさんは、ふところから酒のびんを出して、男たちにすすめました。
「いやあ、ありがてえ。すまんな、ばあさん」
 体のしんまでひえきっていた男たちは、よろこんでお酒をのみました。
 やがて男たちは、みんな高いびきをかいて、ねむってしまいました。
 実はお酒の中に、ねむり薬が入っていたのです。
 そのすきにおばあさんは、五頭の馬にくつ下をはかせて、足音を立てないようにしずかに外へつれ出しました。
 次の朝、馬をつれてきたジャックを見て、地主さんはくやしがりました。
「うーん、またやられたか。よし、もう一度勝負だ。ジャックよ、今日のお昼の一時から三時まで、わしは馬にのっておるから、その馬を盗んでみろ。それができたら、娘をやろう」
「はい、おやすいごようです」
 お昼すぎ、地主さんは馬にのって、ジャックが来るのを待っていましたが、ジャックはなかなか現れません。
「ジャックめ、さすがに今度こそ、まいったろう」
 そこへ、召使いの娘が青くなってかけてきました。
「大変です! おじょうさまが階段からころげおちて、大けがを!」
「なに、娘が大けがじゃと! お前はすぐに医者をよんでこい。そうだ、この馬にのっていけ! 早くな!」
 地主さんが、あわてて家に飛んで帰ると、大けがをしたはずの娘が、笑顔で出迎えました。
「あら、お父さま、どうなさったのですか? そんなに血相をかえて」
 地主さんは、地団駄を踏んでくやしがりました。
「わしとしたことが。またもやだまされたか!」
 そこへ召使いの娘姿のジャックが、地主さんの馬を引いてやってきました。
「勝負はわたしの勝ちですね。約束通りおじょうさんを」
「いいや、もう一度勝負だ!」
 なんども勝負を繰り返す地主さんに、ジャックは少しあきれていいました。
「やれやれ、またですか?」
「これが最後の勝負だ!」
「はい、けっこうですとも。それで、今度は何ですか?」
「今夜、わしが寝ているベッドのシーツを盗んでみろ。これが出来たら、本当に娘をやる」
「きっとですね。もしうそだったら、今度はおじょうさんを盗んで逃げますからね」
 その晩、地主さんがベッドでねたふりをしていると、窓に人影がうつりました。
「ジャックだな。バカなやつめ。」
 地主さんは鉄砲を持ち出すと、人影にねらいをつけました。
「まあ、あなた。まさか、あの若者を撃つつもりじゃないでしょうね」
 奥さんが、心配そうにたずねました。
「いや、ただおどかすだけだ。玉は入っておらん」
 そういって地主さんは、鉄砲の引き金を引きました。
 ズドーン!
 鉄砲が火をふくと、鉄の玉が窓を突き破って人影に命中しました。
 ドサッ!
 窓の外で、人が倒れたような音がしました。
「まあ、どうしましょう! ジャックが死んでしまったわ!」
「まさか、そんなことがあるものか。鉄砲には、少量の火薬しかつめていなかったのに」
 地主さんはあわてて階段を下りると、家の外に出て行きました。
 それから間もなくして、部屋の入り口で、あわてた声がしました。
「シーツだ! シーツをよこせ!」
「あなた! いったいどうしたのですか!」
「ジャックだ。大変な血だ。大けがをしている。シーツで早くほうたいをしなくちゃ!」
 奥さんは大いそぎで、ベッドのシーツを入り口の方へなげました。
 すると声の主はシーツをうけとって、どこかへ行ってしまいました。
 やがて、地主さんが部屋に戻ってきていいました。
「ええい! またしても、ジャックにだまされたわい」
「だまされたって? ジャックは大けがをしたんじゃありませんの?」
「とんでもない。さっき倒れた音がしたのは、わら人形だったわい」
「じゃあ、さっきのシーツは、どうしまして?」
「シーツだと? シーツがどうしたんだ!」
「あなたの言いつけで、さっき、わたしがほうってあげたでしょう」
「ばかもん! それはわしじゃないわい。・・・そうか、わかったぞ、ジャックのやつが、火薬しか入っていない鉄砲と玉の入った鉄砲を入れ替えたんだな。そして、シーツを持って行ったのもやつだ。・・・うーん、頭のいいやつめ。くやしいが、あいつの勝ちだ。」
 こうしてジャックは、めでたく地主さんの娘と結婚したのです。
 それからジャックは人がかわったように働き、地主さんにも、大変可愛がられたということです。

おしまい

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