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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > しじみの恩返し
2008年 9月3日の新作昔話
しじみの恩返し
福井県の民話 → 福井県情報
むかしむかし、小川のそばの小さな家に、太郎という男の子がお母さんと二人で暮らしていました。
まだ子供の太郎は、お母さんを助ける為に、それはよく働きます。
山へたき木を取りに行ったり、近くの家に手伝いに行ったり。
そうして食べ物をもらっては、やっとその日を暮らしていました。
ある日の事、山へしばをかりに出かけた太郎は、大雨に降られて、びしょぬれになって帰ってきました。
お母さんは太郎の体をふいて暖めましたが、その夜、太郎は高い熱を出してしまいました。
お医者さんに診てもらいたくても、お金がないので出来ません。
「せめて、薬があればねえ」
熱が下がらずに苦しそうな太郎を、お母さんは一生懸命看病しました。
何日かたつと、さすがにお母さんもくたびれて、太郎の枕元でうとうとと眠ってしまいました。
するとどこからか、可愛らしい声が聞こえてきます。
「あの、もしもし、太郎のお母さん」
声に目を覚ましたお母さんが、はっとして部屋を見回すと、部屋のすみにしじみが一つころがっています。
「まさか。しじみがしゃべるはずは」
お母さんがそう言うと、しじみはコロコロと転がりながら、お母さんのそばにやって来て言いました。
「いえ、声をかけたのはわたしです。わたしは小川に住んでいるしじみですが、この前の大雨で流されてきました。このままでは、わたしたちしじみは海に流されて、塩水で死んでしまいます。お願いです。どうかわたしたちを、川上の水のきれいな所へ、戻していただけないでしょうか?」
それを聞いたお母さんは、にっこり笑いました。
「そんな事、お安いご用ですよ」
するとしじみは安心したように、コロコロと部屋から出て行きました。
しじみがいなくなると、お母さんは、
(はて、今のは夢だったのかしら?)
と、首をかしげながらも、ザルを持って家を出ました。
そして月明かりにキラキラと流れる小川に顔を近づけて見ると、確かに川底には、しじみがたくさんいます。
「たいへん。夢でも本当でも、とにかくしじみを助けなきゃ」
お母さんは冷たい水の中にザルを入れてしじみをすくうと、それを持って山を登りました。
そして、わき水に近い静かできれいな流れに、そっとしずめてやりました。
それからまた戻って、もう一度しじみをザルですくい、山へ連れていきました。
それを何度も何度も繰り返して、ようやく全てのしじみを救い出すと、しじみたちは声をそろえてお母さんに言いました。
「どうも、ありがとう。お礼に、太郎さんは病気を治してあげますよ」
それを聞いたお母さんは、にっこり笑って山を下りました。
家に帰ると、高い熱で寝ていた太郎が、元気に出迎えてくれました。
「お母さん、おかえりなさい」
「おや、まあ!?」
お母さんが太郎の熱をはかってみると、うそのように下がっています。
「あのね、夢の中にしじみが現れて、助けてくれたお礼だといって薬を飲ませてくれたんだよ」
「そうかい、それはよかったね」
それから太郎とお母さんは、いつまでも幸せに暮らしました。
おしまい
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