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 2010年 12月6日の新作昔話
 
  
 王さまのごほうび
 ジャータカ物語 → ジャータカ物語について
  むかしむかし、インドのある国の王さまが、重い病気にかかりました。「すぐに医者を呼べ! 国中の医者を集めるのだ!」
 家来たちが国中の医者を集めましたが、どの医者も王さまの病気を治す事は出来ませんでした。
 王さまの病気は、悪くなる一方です。
 ところが最後に、一番遠い所からやって来た医者が、すぐに王さまの病気を治してくれたのです。
 王さまは大喜びで、医者にお礼をしようと考えしました。
 「さて、何がいいだろう? ありきたりの物では、この感謝の気持ちを伝える事が出来ない。・・・そうだ!」
 良い考えを思いついた王さまは家来を呼ぶと、家来の耳に小さな声で何かを命じました。
 「いいな、わかったな。それでは、早く行け」
 さて、となりの部屋では、王さまの病気を治した医者が、たいくつそうにあくびをしていました。
 一番遠くから駆けつけて王さまの病気を治したのに、お礼どころか、国へも帰してくれないのです。
 「まったく、ひどい王さまだな」
 でもそのうちに、ようやく国へ帰ってもよいという、王さまのお許しが出たのです。
 「なんだ、一言の言葉も無しか」
 医者は腹を立てながら、遠い自分の家へ帰っていきました。
 そしてやっと家の近くまで帰ってくると、不思議な事に、たくさんの牛やヒツジや馬がいるのです。
 「どうしたのだろう?」
 不思議に思った医者は、歩いている人にたずねました。
 「あの、このたくさんの牛やヒツジや馬は、誰の物ですか?」
 すると、その人は、
 「ああ、これはみんな、あなたの物ですよ」
 と、答えたのです。
 「えっ?! わたしの?」
 わけがわからない医者は、頭を傾げながら自分の家へとやって来ました。
 そして今度は、目をまわすほどびっくりしました。
 なぜなら、今までの住んでいたボロボロの家は取り壊されて、そこには立派なお屋敷が建っていたからです。
 中に入ってみると、床には上等な絨毯(じゅうたん)がしきつめられていて、柱は金や銀で出来ていて、まぶしいほど光り輝いているのです。
 おまけに立派な診察室もあり、今まで欲しくても手に入らなかった上等な器具や薬が、山のようにそろえられていました。
 これを見た医者は、あわてて、
 「これは恥ずかしい。わしは自分の家ではなく、どこかのお屋敷に迷い込んでしまったようだ」
 と、叫びました。
 すると中から、自分の奥さんが出てきて言いました。
 「いいえ、ここはあなたの家ですよ。あなたが王さまのご病気を治してあげたので、王さまはそのお礼に、こんな立派な家を建ててくださったのです。それに、王さまがあなたをびっくりさせようと、あなたには内緒で、こっそりこの家を作ったのですよ」
 それを聞いた医者は、王さまのあたたかい思いやりに感動しました。
 「なんて素晴らしい王さまなんだ。それなのに、わたしは王さまを恨んだりして、本当に恥ずかしい。王さま、どうかお許しください」
 医者はそういって、王さまの住むお城の方角に向かって、深々と頭を下げたという事です。
 おしまい
 
  
 
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