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百物語 第7話

お岩のたたり

お岩のたたり
東京都の民話東京都情報

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音声 創作活動のサイト 『Web団 零点』

 今から三百年ほどむかし、江戸の四谷左門町(よつやさもんちょう)に、お岩という家柄の良い娘がいました。
 ですが気の毒にも、五歳の時に疱瘡(ほうそう→天然痘)をわずらい、それはみにくいあばた顔になってしまいました。
 父親は年頃になった娘をあわれに思って、一人の浪人を連れてきました。
 長い貧乏暮しが嫌になった浪人は、ひどい顔のお岩でも、婿(むこ)になってもいいと言ったのです。
 婿は父親によく仕え、お岩も大切にしました。
 そして父親が亡くなってからも、まじめに働きました。
 おかげで上役にも、大変好かれました。
 中でも特に目をかけて、家へもよく招いてくれる上役がありました。
 そして何度も家に招かれるうちに、婿はその屋敷で働く女中を好きになったのです。
 女中の方も、真面目で男らしい婿を好きになっていました。
 だけど婿は、もしもお岩と別れたら、元の浪人に戻らなければなりません。
 恋しい女と一緒になれない婿は、みにくい顔のお岩が嫌でたまらなくなりました。
 そしてそのうちに家財を売りとばしては酒を飲み、仕事もさぼるようになってきたのです。
 困ったお岩は、目をかけてくれた上役のところへ相談に行きました。
 ところが婿と女中の関係を知っていた上役は、可愛がっている婿と女中をくっつけてやろうと思い、お岩にこう言ったのです。
「いったんどこかに身を隠していなさい。婿によく言い聞かせて改心させた後、きっと迎えにやらせるから」
「はい。お頼み申します」
 お岩は上役の言葉をありがたく聞いて、さっそく遠い武家屋敷に女中として出ました。
 それを喜んだ婿は、
「お岩は家柄を捨てて、どこかへ出て行きおった」
と、言いふらし、堂々と上役の女中と夫婦になったのです。
 人の良いお岩は、婿が迎えに来る日を楽しみに待っていました。
 しかし、何年たっても婿は迎えに来てくれません。

 そんなある日の事。
 お岩のいる屋敷へ、以前、お岩の家にも出入りしていた、たばこ売りがやって来ました。
 たばこ売りはお岩に婿の様子を聞かれて、言いにくそうに新しい奥方との事を話しました。
 それを聞いたお岩は、みるみる青ざめて、
「うらめしや、よくも私をだましたね!」
と、素足のまま飛び出していったのです。
 そしてそのまま、行方知れずになってしまいました。

 ところがそれからというもの、婿のまわりに次々と奇怪な事が起こりました。
 新しい妻と婿が寝ていると、お岩の幽霊がやって来て、恨めしそうにじっと見つめているのです。
 そして生まれた子どもは急に病気になり、そのまま苦しんで死んでしまいました。
 やがて新しい妻の美しい顔が、だんだんと醜いお岩の顔になってきました。
 そしてついには、二人とも狂い死にしたのです。

 また、お岩をだました上役の家族も、お岩にのろい殺されてしまいました。
 それ以来、お岩の家の跡に住む人は、必ず原因不明の病気で死んでしまうので、たたりを恐れた人々は、家の跡にお稲荷さんを建てて、お岩の供養をしました。

 それ以来、お岩のたたりはなくなったということです。

おしまい

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