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 百物語 第16話
 
 
  
 朝顔
 東京都の民話 → 東京都情報
  むかしむかし、江戸(えど→東京都)に、岡田弥八郎(おかだやはちろう)という侍(さむらい)が住んでいました。弥八郎(やはちろう)には、ただ一人の娘がいて、その名をしずと言います。
 しずは朝顔の花が大好きで、十四才の時に朝顔のつぼみを見つけて、こんな歌をつくりました。
 ♪いかならん
 ♪色に咲くかと
 ♪あくる夜を
 ♪待つのとぼその
 ♪朝顔の花
 父はこの歌をたんざくに書いて、妻に見せました。
 「あの小さな胸に、どんな色に花が咲くであろうと、次の朝を待つ心じゃ」
 「はい、まこと素直に、うたわれております」
 ところが娘のしずは、この年の冬にかぜをこじらせて、そのまま死んでしまったのです。
 残された父と母は、とても悲しみました。
 
 さて、夏も近いある日の事。
 母がなにげなく娘の手箱(てばこ→小物入れ)を開けてみると、中には小さな紙包みがいくつも入っていました。
 そしてどの包みにも細いきれいな字で、桃色、空色、しぼり(→青色の一種)などと、色の名が書き記されていました。
 一色ずつ紙にていねいに包んだ、その色の朝顔の種です。
 (ああ、娘はこの種をまいて、それぞれの色の美しい花の咲くのを、どれほど見たかった事でしょう)
 そう思うと母はたまらなく、せつなくなりました。
 「そうだわ。せめてこの種をまいて、娘をとむらいましょう」
 母は庭に、その朝顔の種をまきました。
 
 日がたってつるが伸び、やがてつぼみがつきました。
 ある夏の朝、弥八郎(やはちろう)を仕事に送り出した母は、ふと庭の朝顔を見ました。
 すると美しい一輪の花がパッと咲いていて、その花のそばに娘のしずが立っているではありませんか。
 「おおっ、しず、しずかい?」
 母が思わず声をかけると、娘はうれしそうにニッコリほほ笑み、そして小さな声で、
 「お花をありがとう」
 と、言って、そのままスーッと消えてしまいました。
 夕方になって父の弥八郎(やはちろう)が帰って来た時、夕方にはしぼむはずの朝顔は、まだ美しい色で咲いていたという事です。
 おしまい   
 
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