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百物語 第35話

逆立ち幽霊

逆立ち幽霊
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音声 創作活動のサイト 『Web団 零点』

 むかしむかし、那覇(なは)の町に、みえ橋という橋があって、その橋のたもとに一軒のアメ屋がありました。
 ある夏の夕ぐれ、その日は朝から、しとしとと雨が降り続いていました。
「ああ、こんな日にアメを買いに来る人はいないだろう。少し早いが、店じまいをしよう」
 アメ屋のおじいさんは、久しぶりに早く店を閉めました。
 そして一人で、のんびりとお茶を飲んでいると、
 トントン、トントン
と、雨戸が鳴りました。
「おや、風がひどくなってきたかな?」
 おじいさんは、そう思いましたが、
 トントン、トントン。
 今度ははっきりと、戸を叩く音がしました。
「どなたじゃな? もう店じまいをしたから、また明日にしてくださらんか」
 トントン、トントン。
 何度も何度も戸を叩くので、おじいさんは仕方なく戸口を開けました。
 すると外には、白い着物を着た女の人が、雨にぐっしょりと濡れて立っていました。
「すみません。アメを少し分けてくださいな」
 女の人は、細い声で言いました。
「これはこれは。せっかく買いに来てくれたのに、すぐに出なくてごめんよ。ささ、どれでも持って行ってください」
 おじいさんは、アメを紙に包んで差し出しました。
「よかった。これで家の子も喜びます。ありがとうございました」
 女の人はニッコリ笑うと、お金をおじいさんに渡しました。
「では、気をつけてお帰りよ」
「はい」
 女の人は深くおじぎをすると、雨の中へ消えて行きました。

 それからも時々、女の人はアメを買いに来るようになりました。
 でも、四回、五回と続くうちに、おじいさんはある事に気がつきました。
 それは、女の人がアメを買いに来るのは決まって夕暮れ時で、それも人目を避けてやって来るのです。
「もしかして」
 おじいさんは大急ぎで、お金を入れた箱を持って来ました。
 そしてお金を調べていたおじいさんは、
「わーっ!」
と、腰を抜かしてしまいました。
 なんとお金の中から、半分やけた紙銭(かみぜに)が出てきたのです。
 紙銭というのは、死んだ人が死の旅の途中で使う様にと、紙で作ったお金の事です。
 おじいさんが紙銭を持って、ブルブルと震えていると、
 トントン、トントン
と、雨戸を叩く音がしました。
「来たな」
 おじいさんは、そーっと戸を開けました。
 するとやはり、外には白い着物の女の人が立っていました。
「おじいさん、アメをくださいな」
 女の人は、細い声で言いました。
「はい、ではこれを」
 おじいさんが震えながらアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸にかかえて帰って行きました。
「・・・怖いが、後をつけてみるか」
 おじいさんは女の人の後を、つけて行く事にしました。

 女の人は山道を進んでいき、山の中にあるお墓に辿り着きました。
「やはり、あの女は幽霊だな」
 おじいさんが息を殺して見ていると、女の人はチラリとおじいさんの方を振り向いて、そのままお墓の中に消えていきました。
 おじいさんが、そのお墓の前まで行ってみると、
「オギャー! オギャー!」
と、お墓の中から、赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのです。
「うわーっ!」
 びっくりしたおじいさんは、すぐに町へ帰ると、見て来た事をみんなに知らせました。
 そしてお墓の持ち主とお坊さんを連れて、お墓の前に集まりました。
 さっそくお墓の石を取り除き、中をのぞいて見てびっくり。
 何と赤ん坊が、アメをしゃぶりながら死んだお母さんのそばにいるのです。
 お母さんの顔は、確かにアメを買いに来た女の人でした。
 お墓の持ち主の話では、この女の人は赤ん坊を生む前に、病気で死んだとの事です。
 きっと、葬式が終わってお墓の中へ入れられた後で、この赤ん坊を生んだのでしょう。
 お坊さんは念仏を唱えると、女の人の足をひもでゆわえました。
「もう、アメを買いに行かなくてもいいんだよ。赤ん坊は我々が育てるからね。お前さんの両足を縛っておくから、もう出て来てはいけないよ」
 そしてみんなも、女の人の成仏を手を合わせて祈りました。

 さて、それからしばらくたった、ある夕暮れ時。
 アメ屋のおじいさんが、店を閉めて休んでいると。
 トントン、トントン。
 トントン、トントン、
と、戸を叩く音がしました。
「すみません、アメをくださいな」
「はいはい、ちょっとお待ちを」
 おじいさんが戸を開けて見ると、あの白い着物を来た女の人が逆立ちをして立っていました。
 お坊さんに両足をひもで縛られたので、逆立ちのままやって来たのです。
「ひぇーーっ!」
 おじいさんは腰を抜かして、言葉が出ません。
「すみません、アメをくださいな」
 逆立ちの女の人がもう一度言ったので、おじいさんは何とかアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸に抱えて、闇の中へ消えて行きました。

 アメ屋のおじいさんの知らせを受けて、お墓の持ち主とお坊さんは、それから何度も女の人の供養をしましたが、それから何年もの間、女の人はおじいさんの店にアメを買いに来たそうです。

おしまい

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