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百物語 第63話

あめ屋と子なきじじい

あめ屋と子泣きじじい

 むかしむかし、旅のあめ屋が山をこえる途中、道にまよってしまいました。
 日はくれてくるし、家はないし、あめ屋はとても心細くなりました。
「なにか、おそろしいものが出ないといいが・・・。でも、こういうときほど、なにかが出るんだよな」
 あめ屋がこわごわ歩いていくと、どこからともなく子どもの泣き声が聞こえてきました。
「ほら、やっぱりだー! ・・・おや、子どもか? こんな山の中で子どもが泣いとるぞ。こりゃあ、ただごとじゃない」
 泣き声をたよりに男がやぶをかきわけて行くと、三、四才の男の子が泣いたまま座り込んでいました。
「おおー、よしよし、もう泣かんでもよいぞ。おじさんがだっこしてやろう。それにしても親はどこへ行ったんじゃ?」
 あめ屋は、男の子をひょいっと抱き上げてびっくり。
「うわっ! 子泣きじじいだ!」
 なんとその男の子は、体は子どもなのに顔はおじいさんだったのです。
 あめ屋はびっくりして投げ捨てようとしましたが、子泣きじじいは泣きながらしがみついてきて離れません。
「しまった! うっかり抱き上げるんじゃなかった! どうすればいいんだろ? こら、泣くんじゃない! 泣きたいのはこっちだよ」
 子泣きじじいは親に捨てられたまま、おじいさんになった妖怪です。
 泣き声で人をおびきよせては、抱き上げられるようにしむけて、そしていったん抱かれたら、そう簡単には離れません。
「エーン、エエーン、町へ行きたいよう」
 子泣きじじいはそう言って、ますますしがみついてきました。
「そんなこと言ったって、町までしがみついてこられたら、商売どころではなくなっちまう。・・・そうだ」
 あめ屋は泣き続ける子泣きじじいの口に、あめ玉をひとつ、ポイと放り込みました。
 すると子泣きじじいは、こんなに甘くておいしい物はなめたことがないらしく、ピタリと泣きやむとニッコリ笑いました。
「おじちゃん。もうひとつ、おくれ」
「ああ、やるから、ちょっくら降りな」
「うん」
 あめ屋は子泣きじじいにあめ玉を三個にぎらせると、そのすきに逃げ出しました。
 無我夢中で逃げていくと、ようやく村のあかりが見えてきました。
「やれやれ、よかった」
 あめ屋が一軒の家の戸を叩いて助けをもとめたところ、出てきたのはなんと、さっきの子泣きじじいです。
「おじちゃん。もうひとつおくれ」
「うひょーっ!」
 あめ屋は目を回して、その場にバタンと倒れてしまいました。
 次の朝、目の覚めたあめ屋があたりを見まわすと家などなく、山の中の道ばたに空っぽのあめの箱がころがっているだけでした。

おしまい

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