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百物語 第69話

馬にされた若者

馬にされた若者

 むかしむかし、和尚さんが六人の若者をつれて、山道を越えていきました。
 ところがどこで道をまちがえたか、行っても行っても山は深くなるばかりで、とうとう日がくれてしまいました。
「弱ったぞ。こんなところでは、野宿も出来ないし」
 一行がなやんでいると、むこうにあかりが見えました。
「しめた。あそこに行って泊めてもらおう」
 和尚さんを先頭に、七人があかりの方へ進んでいくと、一軒のあばら屋がたっていました。
 中をのぞくとおじいさんが一人いて、いろりに火をたいています。
「わしら旅の者だが、道にまよって困っておる。どうか今夜一晩、とめていただけぬか?」
 和尚さんが言うと、おじいさんはにっこり笑って、
「そりゃ、お困りじゃろ。こんな山の中なので、たいした世話もできぬが、さあさあ、あがりくだされ」
と、七人をいろりのそばに座らせて、どんどんまきをくべてくれました。
「いやー、あったかい。助かりました」
 七人はほっとして、顔を見あわせました。
 すると、おじいさんは、
「腹もへっとるじゃろ。おかゆでもたいてあげるから、待っていてくれ」
と、言って、いろりの上におかゆのなべをかけ、となりの部屋へひっこみました。
 そのとき、おじいさんがにやっと笑ったのです。
(なんだか、あやしいぞ)
 そう思った和尚さんは、戸のすきまから、そっととなりの部屋をのぞいてみました。
 するとおじいさんは、たらいの中へ土を入れ、種らしい物をぱらぱらとまいて、その上からむしろをかぶせました。
(はて、なにをしようというのかな?)
 和尚さんが注意深く見ていると、おじいさんはすぐにむしろをとりました。
 すると不思議なことに、いま種をまいたばかりだというのに、たらいの中には青あおとしたなっぱがはえていたのです。
 おじいさんはその草をつみとりながら、小さな声でつぶやきました。
「ひっひひひひ。今日はよい日だ。一度に七頭も手に入るとはな」
 和尚さんはあわてて戸のそばをはなれ、いろりのそばにもどりました。
 それと同時に、青いなっぱを手にしたおじいさんが入ってきて、
「そろそろ、おかゆもたけたころだ。このなっぱを入れると、おかゆの味がぐんとよくなるで」
と、おじいさんは、なべの中に青いなっぱを入れてかきまぜました。
「さあ、さあ、どんどん食べておくれ」
 腹をすかせていた若者たちは、和尚さんが止めるひまもなく、うまいうまいと言って食べはじめ、何杯もおかわりをしました。
 一方、なかなか食べようとしない和尚さんを見て、おじいさんは、
「さあさあ、和尚さんも、えんりょせず食べてくれ」
と、さかんにすすめます。
 しかたなく和尚さんは食べるふりをして、おかゆをみんなふところの鉢(はち)の中へ捨てました。
「いやあ、うまかった」
 若者たちは、すっかり満足した様子です。
「それはよかった。では風呂にでも入って、ゆっくり休んでくれ。そろそろ湯もわくころだで」
「何から何まですまない。これじゃまるで、湯治場(とうじば)に来たようなものだ。あははははっ」
 若者たちが、よろこんでいいました。
 和尚さんは、あとでいいと言うので、一番年上の若者から風呂へ入ることになりました。
 おじいさんは若者を、あばら屋からはなれたところにある風呂場へとつれていきました。
(いよいよ、あやしいぞ)
 和尚さんは、こっそり二人の後をつけて、物置のかげにかくれました。
 すると、着物をぬいだ若者が風呂場に入ったとたん、
「ひひひいーん」
と、いう、馬の鳴き声が聞こえたのです。
 おじいさんはすぐに風呂場へとびこみ、一頭の馬を引きだしてきて、その口にたずなをつけると、
「どうどう。いまさら人間には戻れぬのじゃ。あきらめるがよい」
と、言いながら、裏の馬小屋へつれていきました。
(まさか!)
 びっくりした和尚さんは、若者たちに知らせなくてはと、いそいでいろりのそばへもどってわけを話しました。
 ですが若者たちに、
「そんなばかな。和尚さんは、どこか具合でも悪いんですか?」
「そうですよ。あんなに親切な人を悪く言うなんて」
と、言われるしまつです。
 やがておじいさんは、若者たちを次つぎと風呂場につれていっては、若者たちを馬に変えて裏の馬小屋につなでいきます。
「あとは、坊主が一人か」
 おじいさんがもどってみると、いろりのそばにいた和尚さんがいません。
 そのころ和尚さんはあばら屋を逃げ出し、山の中をむちゅうでかけていました。
「さては、気づかれたか」
 するとおじいさんは、みるみる鬼の姿に変身して、外へとびだしました。
「やい、和尚! 待たぬか!」
 恐ろしいさけび声が、追いかけてきます。
 和尚さんは死にものぐるいで走りましたが、まっ暗な山の中では、どこへ走っているのかさっぱりわかりません。
「待てえー! 待てえー!」
 鬼の声は、すぐ後ろから聞こえてきます。
「ああ、もうだめだ」
 和尚さんは思わずしゃがみこむと、必死にお経をとなえました。
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ・・・」
 するとようやく夜が明けてきて、東の空から日がのぼってきました。
 鬼は、太陽の光が苦手なのです。
「くそっ、もうすこしだというのに!」
 鬼はくやしがりましたが、やがてしかたなく帰って行きました。
「やれやれ、あぶないところだった」
 和尚さんは、ほっとして立ちあがり、
「おてんとうさま、ありがとうございました」
と、お日さまにむかって手をあわせました。

おしまい

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