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百物語 第75話

おこった石どうろう

おこった石どうろう

 むかしむかし、ある藩(はん)に、ご城代役(じょうだいやく)をつとめている侍がいました。
 この人は大変、風流(ふうりゅう)を好む人です。
 ある日の暮れ方のこと、近くの川原をぶらりぶらりと歩いていると、畑の中に何か黒い物が立っています。
(はて? とうろうのようであるが)
と、そばへいって見ると、古びてはいますが、りっぱな石どうろうです。
(ふーむ。これはなかなかの名工(めいこう)がつくったものらしい。それにしても、なぜこんなところに?)
 そこへ、近くの畑をたがやしているおじいさんがいたので、
「これこれ。ちょっとたずねるが、なぜこのような畑の中に、とうろうが立っておるのじゃ」
 百姓じいさんは、ご城代役とは知らずに、『妙なことを聞くお侍じゃ』というような顔で、
「へえ、へえ。この石どうろうは、ずいぶんむかしからここにあったものだそうで。わしの親のいい伝えでは、なんでもこのとうろうは、うっかりいじくってはなりませんそうで。万が一これをとりのけますと、その者にたたりがくると、そう申しておりましたわい」
「なに。たたりがくると申すのか?」
「へえ。わしら百姓には、ちとじゃまですが、親からのいい伝えで、このままにしております」
「ふーむ。なるほど」
 ご城代役は、つくづくとその石どうろうに見いっていました。
 形はいいし、美しいこけが一面にはえていて、いかにも上品です。
 こんな畑の中におくのは、どう考えても、もったいない品です。
(城内に持ち込んで庭においたら、さぞよかろうに)
と、思いながら、その日はそのまま帰りました。
 しかし、どうにも気になって、家来に石どうろうのいわれを調べさせました。
 だけど、むかしその場所に寺が建っていたというだけで、くわしいことはわかりません。
 城代は、その石どうろうがどうしても忘れられず、とうとう家来をやって、とうろうをお城の中に持ってこさせました。
 そして庭に運ばせて、築山(つきやま→庭園などに、山に見立てて土砂または石などを用いてきずいたもの)の植えこみのあいだに立てさせてみました。
「なるほど、これはよい。庭も一段と、ゆかしさをそえたわい」
 城代は日が暮れるまで、庭をながめていました。
 ところが、その夜ふけのこと。
 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン
 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン
と、はげしくお城の門をたたく者があります。
 たたきながら、なにかしきりにわめいている様子です。
 門番の足軽が、びっくりしてとんでいくと、外から声がしました。
「自分は、堀貫(ほりぬき)の彦兵衛(ひこべえ)ともうす者。ここを開けよ」
と、いいながら、またもしきりに戸をたたきます。
(いったい今頃、何者であろう?)
と、門番が、とびらのすきまからそっとのぞいて見ますと、月明りの下に、一人の男が仁王立ちに立っているのです。
 頭髪をわらでたばねて、ぼろ着物をきて、腰を荒なわでしばった、見るからにむさくるしい男です。
(どうやら、古くからこの土地にすんでおる者らしい)
と、思いましたが、あんまりきたない身なりをしているので、門を開けずにいました。
 すると男は、われがねのような声でわめきたてたのです。
「ご城代どのに! 堀貫の彦兵衛が! まいったことを! 急ぎお知らせ願いたい!」
(この夜ふけに、とんでもないやつじゃ!)
と、門番はとりあわずに、番小屋にもどりかけました。
 すると、外から、
「やっ!」
と、ひと声、声が聞こえたかと思うと、ひらりと門をとびこえて、男は中に入ってきたのです。
 門番は、びっくりして、
「くせ者、くせ者でござる!」
と、屋敷にむけて叫びながら、あやしい男に組みついていきました。
 つぎの朝、家来の一人が門の近くへやってくると、おどろいた事に門番の足軽が地面にたおれて、気絶しているのです。
 門番はみんなに介抱(かいほう)されて、やっと気がつくと、ゆうべのことを話しましたが、だれも本気にしません。
 ところが、夜ふけになると、
 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン
 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン
と、はげしく門をたたく者があります。
 たたいてはわめき、わめいてはたたく。
 そして今夜も、
「堀貫の彦兵衛でござる。ご城代どのに、お目通り願いたい」
と、いうのです。
 門番は、ゆうべとはちがう足軽でしたが、ゆうべの出来事は聞いていたので、
(さては、本当にやってきたのか)
と、思うと、気味が悪くてたまりません。
 いくら門をたたこうと、なんとわめこうと、知らん顔をしていました。
 ところが彦兵衛は、
「えいっ!」
と、門をのりこえると、屋敷の方へ走っていったのです。
 彦兵衛は、ご城代の寝間(ねま)に入ると、まくらもとに仁王立ちに立ったまま、ガラガラ声でどなりつけました。
「その方、なにゆえあって、わが石どうろうをうばったのじゃ。とうろうこそは、われなきあとのしるしとして、ほんの形ばかりを残したもの。すぐさま、もとにかえさばよし。さもなきときは、うらみをなさん!」
 大きな体をぶるぶるふるわせて、荒々しくさけぶのです。
 城代は、まくらもとの一刀をとるより早く、
「えいっ!」
と、彦兵衛に切りつけました。
 カチーン!
 石をたたいたような音とともに、彦兵衛の姿は消えてしまいました。
 夜が明けると、城代はすぐ起きて庭へ出ていきました。
 そして築山の植えこみに立っている石どうろうをよく調べてみると、笠石(かさいし)のところに、ゆうべの刀のきずあとが、はっきりと残っているのです。
「うむ。このとうろうには、よほどのふかいわけがあるにちがいない」
 そしてその日のうちに、ご城代は、もとの場所に石どうろうをかえしたのです。
 それからあとは、もう何事もおこらなかったということです。

おしまい

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