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百物語 第105話

鬼のうで

鬼のうで
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 明治になってまもないころ、浅草(あさくさ)に、田宮義和(たみやよしかず)という男がすんでいました。
この男はもともと(さむらい)だったそうで、どこで手に入れたのか、『のうで』という、不思議な物を持っていました。
そのうでは田宮の言う事を何でもきき、家のそうじやせんたく、台所の仕事から身のまわりの世話まで、田宮は全て、この鬼のうでにやらせていたのです。
銭湯へいくときなどは、このうでをつれていって背中を流させたり、手足をあらわせたりしながら、ほかの入浴客とのんきに話しをしていたそうです。
町の人が田宮の家へいくと、田宮は鬼のうでに、肩やこしをもませているのです。
「このうでは女房みたいなものだ。いや、人間の女房以上によく働くぞ。それにめしも食わせんでよいし、着物をねだられる心配もない」
ところが、冬のある日の事。
富山(とやま)の薬売りが、毎年薬を買ってくれる田宮の家へやってきました。
「こんにちは、いつもの薬売りです」
薬売りがいくらよんでも、返事がありません。
そこで薬売りは家へあがって、部屋の障子(しょうじ)をそうっと開けてみたところ、
「ギャーーッ!」
薬売りはビックリ。
なんと部屋の中では田宮が目をむいて、あおむけに倒れていたのです。
そして田宮ののどのところに、鬼のうでが立っていました。
知らせを聞いた役人が、田宮を調べていいました。
「うむ。田宮は鬼のうでに、首をしめられて殺されたものにちがいない」
役人たちは鬼のうでを首からはなそうとしましたが、指がしっかり首に食いこんでいて、どうしてもはなす事が出来ません。
「しかたがない。そのままつれていけ」
田宮は首にうでをくっつけたままで、土葬(どそう→死体を火葬せずに、土に埋めること)されました。
埋葬(まいそう)がすっかりおわったあと、役人の一人が線香(せんこう)をあげながら言いました。
「どうも、このうでは女の鬼のものらしい」
すると、べつの役人が不思議そうにたずねました。
「どうして、そんな事がわかるのですか?」
「うむ、あの手は鬼のうでにしては、細くてやさしい指をしておった。だが、ずいぶんと田宮にこきつかわれたとみえて、ひどい赤ぎれじゃ。かわいそうな事よ」
役人は線香をもう一本とると、今度は鬼のうでのために手をあわせました。

おしまい

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