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百物語 第127話

おきだした死人

おきだした死人

 むかしむかし、ある村に、ひとりの魚売りの男がいました。
 町へ魚をしいれにいこうとして、山の近くの野道を歩いていると、キツネたちが二、三匹かたまって、ひなたぼっこをしていました。
 男はキツネをおどかしてやろうとおもい、草のかげにかくれて、コッソリと近づき、いきなりたちあがって、
「わっ!」
と、さけびました。
 さすがのキツネも、これにはとびあがっておどろき、ころがるようにして山のほうへにげていきました。
 男はそれをみて大よろこびです。
「あんなキツネにだまされるなんて、よっぽどまぬけなひともいるものだ」
と、いいながら、町へいきました。
 男は町であう人ごとに、さっきのできごとをはなして、
「キツネは千日さきのことでもわかるというが、やっぱりただのけだもの。わしのひとことでこしをぬかしおった」
と、むねをはりました。
 さて、男は町で魚をしいれ、それをかたにかついで村へもどっていきました。
 ところが、町でキツネのことをはなして歩いたおかげで、かえり道のとちゅうで日がくれてしまいました。
 あいにく空がくもっていて、星ひとつみえません。
(よわったぞ。こんなところで、野宿するわけにもいかんし)
 男がくらやみのなかを手さぐりで歩いていると、むこうのほうに明りがみえました。
(しめた。あそこでとめてもらおう)
 男はきゅうに元気がでて、明りのほうへ近づいていきました。
 そこには古びた家が一けんだけたっていて、戸のやぶれからなかをのぞくと、白髪(はくはつ)の老婆(ろうば)がひとりで糸をつむいでいました。
 なんだか、きみのわるそうな老婆でしたが、男はおもいきって戸をあけました。
「日がくれてこまっている。こん夜ひと晩、とめてもらえぬか」
「それはお気の毒に。こんなところでよかったら、どうぞ」
 老婆は、心よく男をむかえると、いろりのふちにすわらせました。
「あいにく、夕はんをすましたあとで、なんもないが」
「いや、めしのしんぱいはいらない。おそくなるとおもい、町ですましたところだ」
 男は魚の入ったカゴを、こわきにおきました。
 老婆はそのにもつにチラッと目をやったあと、すぐ笑顔にもどっていいました。
「お客さん、どうしても、となりの家までいかなくちゃいけないようじがあって、ほんのしばらくるすにするが、気がねなくいろりにでもあたっていておくれ」
「となりの家?」
「なに、この原っぱのさきに、わしのしんせきの家があっての。なれているので、ほんのひとっ走りじゃ」
 老婆はそういうと、まっくらな外にでていきました。
 男はひとりになると、きゅうに心ぼそくなりました。
 いかに知らない老婆といっても、ふたりでいるほうがよほどおちつきます。
(おそいなあ。早くかえってこないかなあ)
 男はなんども戸をあけて外をみましたが、だれもやってくるようすはなく、野原の草がザワザワと風にゆれるばかりです。
 そのうちに、いろりの火も小さくなり、いまにもきえそうになりました。
 男がどこかにたきぎはないかと、まわりをみまわしたら、なにやらへやのすみに白いものがよこたわっています。
(だれかねているのかな。たしか老婆ひとりのはずだが)
 男はたちあがって、こわごわ、近よってみました。
 なんとそこには、まっ白いきものをきた人が、あおむけになってねていました。
 まるでガイコツのようにやせほそり、ジッと目をむいたままです。
(なんだ。病人がいたのか)
 男は、こわごわのぞきこんでみました。
 ところがよくみてみると、病人はピクリとも動きません。
 そっとひたいに手をあててみると、こおりのようなつめたさです。
(し、しっ、死んでる)
 男はビックリして、うしろへとびのきました。
 そのとたん、死人が、うんうんとうなりだし、ガイコツのような手をゆっくりと動かしはじめたのです。
 気の強い男も、これにはビックリして、
「ギャアアアアー!」
と、さけぶなり、はだしのまま家の外へとびだしました。
 くらやみのなかをメチャクチャに走って、なに気なくうしろをふりむくと、なんとさっきの死人が、口をパクパクさせながら、ズンズンと近づいてくるではありませんか。
「た、たすけてくれえー」
 男がまたむちゅうでかけだすと、目の前に大きな木が一本たっていました。
 男はひっしで、木のみきをよじのぼり、葉のしげみにかくれました。
 すると死人は、木の下までやってきて、上をみあげると、ニタッとわらいました。
 男はおもわず目をつむり、木にしがみつきました。
 死人は、しばらく木の上をみあげながら、ニヤニヤと、わらっていましたが、どうやらあきらめたらしく、一けん家のほうへもどっていきました。
(やれやれ、たすかった)
 男はホッとして、むねをなでおろします。
 それでも下におりるのがこわくて、夜が明けるまで木の上にすわっていました。
 さて、あたりがすっかり明るくなってみると、男は野原のはしにある大きなカキの木の上にすわっていました。
 まっ赤なカキの実が、あちこちにぶらさがっています。
 すっかりはらのすいていた男は、目の前にさがっているカキの実をとろうとして、そのえだにのりうつったとたん、ポキリとえだがおれ、そのまま下へまっさかさま。
 ところが、その下は川になっていて、男は頭から水のなかへとびこみました。
 さいわいけがもなく、男はやっとのことで川からはいあがると、きのうのキツネたちが、ばかにしたような顔でこっちをみています。
(なっ、なんだ。これはきのうの仕返しか? ぐずぐずしていたら、なにをされるかわからない)
 男は、あともみずにかけだしました。
 せっかくしいれてきた魚も、カゴごとキツネたちにとられてしまい、いのちからがら家にもどったそうです。

おしまい

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