福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語) 
         
        百物語 第139話 
          
          
         
おどるしかばね 
      
       むかしむかし、あるところに、庄屋(しょうや→詳細)さんの夫婦がいました。 
 庄屋さんはまじめで、ふだんから、ねんぶつをとなえたりする人でしたが、おかみさんときたら、神も仏(ほとけ)もしんじようとはしません。 
 それどころか、やしきではたらいている人たちをビシバシはたらかせて、じぶんひとり、ぜいたくな生活をしていました。 
 ところがある日、ポックリと、死んでしまったのです。 
「『あの世のことなど、どうでもよい。この世さえおもしろければ、あとは野となれ、山となれ』などといっていた、どうしようもない女房だが、人なみに、そうしきをしてやらねばなるまい」 
 庄屋さんは、おかみさんのしかばね(→死人の体)のまえに、おせんこうをたいて、手をあわせました。 
 そのばんおそく、どこからか、ふえやたいこの音がきこえてきました。 
 その音は、しだいに庄屋さんのやしきのほうへと、ちかづいてきます。 
 すると不思議なことに、おかみさんのしかばねが、ゆっくりおきあがったのです。 
 そして、ふえやたいこにあわせて、おどりはじめました。 
 庄屋さんも、おつやに集まってきていた人たちも、ビックリするばかりです。 
 ふえやたいこのねいろは、庄屋さんのやしきのやねのあたりで、しばらくなりひびいていましたが、そのうちに、どこかへとおざかっていきます。 
 するとおかみさんのしかばねも、おどりながら、フラフラと、あるきさっていくのです。 
「これはたいへんだ!」 
 庄屋さんは、ハッとわれにかえって、にわの木のえだをへしおると、これを手にしかばねのあとをおいました。 
 どんどんいくと、そこにはおはかがあって、おに火がユラユラとゆらめいていました。 
 ふえやたいこの音色(ねいろ)が、いちだんとにぎやかです。 
 おかみさんのしかばねは、音色にあわせて、おどりつづけています。 
 庄屋さんは手にしていた木のえだで、おかみさんのしかばねをぶちました。 
 とたんに、しかばねはバッタリたおれ、ふえやたいこもピタリとなりやみました。 
「やれやれ、生きていたときの行いがわるかったために、まものにつれていかれようとしたのだろう」 
 庄屋さんは、しかばねをせおってかえり、あくる日ぶじに、おそうしきをだしたということです。 
      おしまい 
         
         
        
       
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