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百物語 第298話

つかずの鐘

つかずの鐘
京都府の民話京都府情報

 丹後(たんご)の国、成相山(なりあいやま)の中腹にある成相寺(なりあいじ)の鐘は『つかずの鐘』と呼ばれて、今までにほとんどつかれていないそうです。
 これは、それにまつわるお話しです。
 むかしむかし、成相寺の鐘は寺の坊さんと侍との争いがあったときに、こわされてしまいました。
 村では、なんとか成相寺の鐘をもう一度新しく造ろうという話がまとまり、村の人々すべてから寄付金を集める事になったのです。
 さて、その村はずれに太助(たすけ)という貧乏な男が、女房と生まれたばかりの赤ん坊と三人で暮していました。
 そしてもちろん、太助の家にも寄付集めの男がやって来たのです。
 ところがちょうどそのとき太助は外に出かけていて、女房は一文の金も持っていません。
 そこで女房は、
「今は主人が出かけていますので、家には一文もありません。また今度にしてください」
と、言ったのですが、寄付集めの男は、
「ありがたい鐘を造るために、村のみんなが金を出しとるんじゃ。なんとかならんのか」
と、帰ろうとはしないので、女房は仕方なくこういいました。
「どうしてもお金を出せと言われても、ここには一文の金もありません。そんなに言われるのなら、わたしたち夫婦が命より大事にしているこの赤ん坊を持って行って下され」
「ふん! それなら今日は帰るが、絶対に寄付をするように太助に伝えておけよ。わかったな」
 男は捨てぜりふを残して、やっと帰って行きました。
 やがて京都から有名な鋳物師が呼ばれて、鐘造りが始まりました。
 鋳型が出来上がり、その中に溶かされた銅が流しこまれます。
 そして型を割って見ると、どうでしょう。
 ちょうど鐘を撞く場所に、大きなへこみがあるではありませんか。
 鐘はまた造り直したのですが、不思議な事に、また同じところにくぼみができるのです。
「これは、何かのたたりかも知れんぞ」
「寄付をしなかった太助の女房が、寄付の金のかわりに赤ん坊を出すちゅうとったぞ。もしかするとその話に因縁があるかも知れん」
 村人たちは、あれやこれやとうわさをしました。
 そして三回目の鐘が造り直され始めたとき、急に太助の赤ん坊が姿を消してしまいました。
 太助と女房はあちこちを探し回りましたが、とうとう見つかりませんでした。
 一方、成相寺では、坊さんが熱心にお経をあげながら鐘造りが始まりました。
 そして一晩中かかって、やっと型がはずされると、今度はどこにもくぼみがない、見事な鐘が出来上がったのです。
 さっそく鐘は鐘つき堂につるされて、朝と夕方に撞かれる事になったのです。
 ところが、不思議な事が起こりました。
 朝夕の二回、鐘の音が鳴り響くと、今まで静かな海が急に荒れ狂い、大波が押し寄せて漁師の船を沈めたりするのです。
 また鐘が鳴り響く間、鐘の音とともに赤ん坊の泣き声が聞こえてくるのです。
 そんな事があってから、太助夫婦は旅に出て村からいなくなり、鐘も撞かなくなったのです。
 そしてある年の事、成相寺に一人の男が訪ねてきて、
「毎日毎日、苦しんでおります。どうか私を坊さんにして下さい」
と、いいました。
 その男は、太助の家に寄付を集めに行った男だったそうです。

おしまい

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