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第 37話
タニシ長者(ちょうじゃ)
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、あるところに、貧乏なお百姓(ひゃくしょう)さんの夫婦がいました。
夫婦には子どもがいないので、さびしくてたまりません。
「神さま、どうぞ子どもをさずけてください。どんなに小さな子どもでも、タニシのような子どもでもいいんです」
夫婦が神さまにお願いすると、間もなく赤ちゃんが生まれました。
でもそれは人間ではなく、タニシの赤ちゃんでした。
「タニシのような子どもでもいいと言ったが、本当にタニシの子だ」
「でも、神さまがくださったんですよ」
「そうだな、タニシでも、かわいいわが子だ」
お百姓のお父さんとお母さんは、タニシの赤ちゃんを大事に育てました。
でもこのタニシの子は、何年たっても大きくなりません。
そのうちに、お父さんとお母さんは、すっかり年をとってしまいました。
ある日の事、お父さんはお米を俵(たわら)につめて、ウマにのせました。
「よいこらしょ」
その時、どこからか声がしました。
「お父さん、その俵、村のお金持ちの所へ運ぶんでしょう」
お父さんはビックリして辺りを見回しましたが、近くにはタニシが日なたぼっこをしているだけです。
「誰もいないな。何かの聞きまちがいだな」
お父さんはそう思って、また俵をつみはじめました。
「お父さん、ぼくが俵を運んでいくよ」
また、さっきと同じ声がしました。
お父さんが見回しても、やはりタニシの子しかいません。
「??? ・・・もしかして、お前か?」
「はい、お父さん。ぼくです」
なんとタニシが、人間の言葉をしゃべったのです。
お父さんはあわてて、お母さんを呼びにいきました。
すると二人の前でも、タニシはしゃべります。
「ぼくはウマを引いていけないから、ぼくを俵の上にのせてよ」
お母さんも、びっくりです。
「なんて不思議な子どもでしょう。きっと、神さまがくださった子どもだからですよ」
「ああ、それならお使いも、出来るかもしれないな」
お父さんが三俵積んだ米俵の上にタニシをのせると、タニシは元気良く言いました。
「それじゃ、お父さん、お母さん、行ってきます。それ!」
タニシの子がかけ声をかけると、ウマは歩き出しました。
タニシの子は細い道でも曲がり道でも上手にウマを歩かせ、やがてお金持ちの大きな家につきました。
庭で掃除をしていた使用人は、そのウマを見てびっくりです。
「おや? お米をつんだウマが、一人でやって来たぞ。連れて来た人はどこにいった?」
するとタニシが、俵の間から出てきて言いました。
「運んできたのは、ぼくです。あの、おろしてください」
「うひゃ! タニシがしゃべった!」
使用人のおどろく声を聞いて、お金持ちが出てきました。
見るとタニシの子が使用人にさしずをして、俵を物置きへ運ばせています。
タニシはお金持ちに気づくと、きちんとあいさつをしました。
「はじめまして。お父さんのお使いで、お米を運んできました」
それを聞いて、お金持ちは感心しました。
「小さなタニシだが、なんとかしこい若者だろう」
感心したお金持ちは、タニシを自分の娘のおむこさんにしました。
お金持ちの娘はとてもやさしい人で、貧乏なタニシのお父さんやお母さんにも親切でした。
ある日の事、タニシとお嫁さんは神社に出かけました。
お嫁さんの願いは、タニシが人間になることです。
(どうか神さま、だんなさまを人間にしてください)
お参りを終えたお嫁さんがふと見ると、一緒にいたはずのタニシがいません。
「あなた? あなた、どこへ行ったの?」
お嫁さんが泣きながらタニシを探していると、どこからか立派な若者が現れました。
お嫁さんは、若者にたずねました。
「あの、この辺でタニシを見ませんでしたか? わたしのだんなさまなのです」
すると若者は、にっこり笑って言いました。
「わたしが、そうです」
「えっ?」
「あなたが神さまにお願いしてくれたので、わたしは人間になれました」
「人間に。うれしいわ!」
こうして二人は、末永くしあわせに暮らしました。
おしまい
おまけ
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