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第 49話
かさ売りお花
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、お花という名前のかさ売り娘がいました。
お花のかさは、かさ職人のお父さんが一生懸命に作ってくれた物ですが、雨の少ないこの地方では、かさはあまり売れませんでした。
ある日の事、遠くの町までかさを売りに行ったお花は、くらい夜道がこわくなって歌を歌いました。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ 魚がよろこぶぞ。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ 百姓(ひゃくしょう)がよろこぶぞ。
♪雨ふれ 雨ふれ。
♪雨ふりゃ かさ屋がもうかるぞ。
するとそこへ、大きな体のおばあさんが現れました。
おばあさんは、お花ににっこり笑って言いました。
「さっき歌っていた歌を、わたしにも聞かせておくれ。わたしは、雨が大好きじゃ」
「うん、いいよ」
一人で心細かったお花は、すっかりうれしくなって歌いました。
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、かさ屋がもうかるぞ。
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、魚がよろこぶぞ。
するとお花の歌に合わせて、おばあさんも歌います。
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、黒川がよろこぶぞ。
♪雨ふれ、雨ふれ。
♪雨ふりゃ、女川もよろこぶぞ。
おばあさんの歌っている黒川や女川とは、この近くにある川の名前ですが、雨がふると川がよろこぶとはどういう意味でしょうか?
不思議に思ったお花が、おばあさんにたずねました。
「おばあさん、どうして雨がふれば、黒川や女川がよろこぶの?」
すると、おばあさんが言いました。
「雨がふれば、川の水がふえるじゃろう?
水がふえれば、川はそれだけ力が大きくなるんじゃ。
わたしはこれから黒川へ遊びに行くが、お前も一緒に来なさい。
黒川もきっと、お前の歌を気に入るじゃろう」
「でも、あたし、家に帰らないと」
お花がそう言うと、おばあさんの顔が急にこわくなりました。
「いいや! お前はわしと、黒川に行くんじゃ! 家には帰さんぞ!」
暗い夜道で今までわからなかったのですが、よく見るとおばあさんの顔や手足には、魚のようなうろこがびっしりとついています。
お花はびっくりして、むちゅうでかけ出しました。
「あたし、家に帰るっ!」
「ならん! お前は、黒川へ行くんじゃ! 」
逃げるお花を、おばあさんが追いかけます。
「こら、待てっ! わしは女川の大ガッパじゃ! お前を黒川の大ガッパの手みやげにしてくれるわ!」
お花が振り向くと、おばあさんはカッパの正体を現しました。
逃げるお花は、道の向こうに塩たき小屋があるのを見つけました。
塩たき小屋では夜通し塩をたいて塩を作っているので、あそこまで行けば助かるかもしれません。
お花は塩たき小屋に逃げ込むと、中にいたおじいさんに言いました。
「助けてください! カッパに追われているんです!」
「何じゃと! よし、奥に塩かごがあるから、そこにかくれていろ!」
お花が塩を入れる塩かごの中にかくれると、そこへ大ガッパが現れました。
「やい、じじい! いまここへ、娘がやって来ただろう!? 娘は、黒川への手みやげじゃ!
娘をはやく渡せ!」
するとおじいさんは、塩たき小屋の奥を指さして言いました。
「娘か、娘ならほれ、そこの塩かごの中にかくれておるわ。ほしけりゃ、中に入って来い」
「ぬぬっ・・・」
塩はカッパの弱点で、塩が体にかかるとカッパはナメクジのように死んでしまうと言われています。
大ガッパは小屋の入り口に立ったまま、中に入ってこようとはしません。
「カッパよ、どうした? 塩がこわいのなら、娘はあきらめて帰れ!」
「しっ、塩など、こわくないわ」
大ガッパは塩が体につかないように注意しながら、ゆっくりと小屋の中に入ってきました。
そして塩かごがつんであるところへ行くと、おじいさんに言いました。
「じじい、娘の入っている塩かごはどれじゃ?!」
「ほれ、そのたなの上の塩かごじゃ。そこのはしごをのぼっていくがいい」
おじいさんは、お花がかくれている塩かごとは違う塩かごを教えました。
「あれじゃな」
大ガッパは、近くにあったはしごを一段ずつのぼっていきました。
ミシリ、ミシリ。
しかしそのはしごは、とちゅうからくさっていたのです。
そして大ガッパが、たなの上の塩かごに手をのばそうとしたその時、
バキッ!
と、はしごがこわれて、大ガッパは下に落ちてしまいました。
するとそのいきおいで、たなの上にあった塩かごが大ガッパの上に落ちてきたのです。
「ウギャァーー! 塩が、塩がかかったっ!」
大ガッパは苦しそうに体をくねらせると、塩をかけたナメクジのようにそのままとけてなくなりました。
「わっはははははは。すてようと思っていたはしごが、役に立ったわい」
それいらい、女川の主を退治した塩たきのおじいさんとお花の事が評判となり、お花のかさはどこへ行っても飛ぶように売れて、お花の家はお金持ちになりました。
おしまい
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