1月22日の小話

貧乏神
   ある夫婦がおりました。
   よく人の世話もしますし、商売にも精を出すのですが、どういうものか、いつも貧乏でした。
   女房がひどく心配して、
  「これはきっと、わしらの家に貧乏神がおるにちがいないよ」
  と、いえば、あるじも、
  「どうもそうらしい。さっそくおいだしてやろう」
  と、なまの杉っぱをもやして、けむりをどんどん出し、家のすみずみから、縁の下までくすべました。
   そして、ほうきや竹のぼうで、そこらじゅうをたたいてまわりました。
   すると、何やらきたないものが、土間(どま→家の中の、地面のままの所)にごろがりおちて、ひっくりかえりました。
  「それっ、貧乏神じゃ。たたき出せっ!」
   ふたりしておいかけましたので、さすがの貧乏神も、
  「たまらん、たまらん」
  と、頭をかかえて、表へ逃げ出しました。
   夫婦は、ぴたりと戸をしめて、
  「これで、貧乏はおしまいじゃ」
  と、よろこんでいますと、
  トントン
  トントントン
  トントントントン
   表戸をたたく音がします。
  「だれだ」
  と、きいても、返事がありません。
  「どなたさまで」
   あるじが戸口を細めにあけると、
  「貧乏神でございます」
   あるじはびっくりして、どなりつけました。
  「おことわりじゃ! おことわりじゃ! もう、この家に入ってはならぬ!」
   すると、貧乏神は涙声でもうしました。
「長いことお世話になりました。これでおいとまいたします。あとにのこしましたせがれどもが、十人ほどいますが、どうぞよろしくおねがいいたします」
おしまい