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第 39話
土仏観音(どぶつかんのん)
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むかしむかし、越前(えちぜん→福井県)の坪江村(つぼえむら)にある滝沢寺(たきざわてら)の和尚が、京都で修行していたときの事です。
道ばたに十八人の子どもたちが集まって、泥ダンゴで二十三体の観音さまを作っていました。
その観音さまの出来があまりにもよいので和尚が感心していると、子どもたちはその中でも一番出来のいい観音さまをくれると言うのです。
「ありがとう。きっと大切に・・・」
と、和尚がおじぎをして頭を上げてみると、そこには誰もいません。
「・・・そうか、これはきっと、仏さまが私にくだされた物に違いない」
そう考えた和尚は、その観音さまを肌身離さず持っていました。
さて、ある日の事、旅に出た和尚は、山の中で道に迷ってしまいました。
ほとほと困りはてていると、一軒の家が見つかりました。
和尚が一晩泊めてくれるように頼んでみると、中にいたひげづらの男とその女房は気持ちよく迎えてくれました。
ほっとした和尚は、すぐにぐっすり眠ってしまいました。
それを見た二人は、ニヤリと笑い、
「へっへへへ。久しぶりの獲物じゃ。今のうちに殺してしまおう」
と、顔を見合せました。
なんとそこは、山賊の住み家だったのです。
男は刀を抜くと、眠っている和尚の首を切り落としました。
「よしよし。後の始末は明日にしよう」
と、言って、その晩はそのまま寝てしまいました。
さて次の日の朝、二人がまだ眠っていると、お経を読む声が聞こえてきます。
びっくりして目をさますと、なんと殺したはずの和尚が座っているではありませんか。
「ゆ、ゆ、幽霊、幽霊だ! 勘弁、勘弁してくれ!」
と、二人がガタガタふるえていると、和尚が、
「二人とも、何を寝ぼけているのです。いくら坊主でも、幽霊とはひどい話だ」
「しかし、わしはゆうべ、確かにお前の首をこの刀ではねたんじゃぞ」
と、男が言うと、
「それなら、どうして私は生きておるのだ? ・・・そうか、もしやして、観音さまが助けてくださったのかもしれん」
と、ふところから観音さまを取り出してみて和尚はびっくりです。
なんと観音さまの首すじに刀の傷跡があり、今にも首が落ちそうになっていたのでした。
「やはり、観音さまが私の身替りになってくださったのか」
和尚は深く頭を下げ、それを見ていた山賊の夫婦は心から改心して、それからは仏につかえて一生をすごしたのです。
今でも滝沢寺には、その土仏観音がまつられているということです。
おしまい
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