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第 276話
牛になった小僧
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むかしむかし、あるところに、とても貧乏なおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある雪の夜、
トントントン
と、家の戸を叩く音がしたので、おじいさんが戸を開けてみると家の外に小僧さんが立っていました。
小僧さんはペコリと頭を下げると、おじいさんに言いました。
「旅をしているのですが、この雪で困っております。どうぞ一晩だけ、泊めてください」
「それはそれは、お困りでしょう。見ての通りの貧乏家で何もありませんが、どうぞあがってください」
おじいさんは小僧さんを囲炉裏の前に座らせると、熱いお湯を出しました。
「ああ、温かい」
小僧さんはよほど疲れていたのか、お湯を一口飲むと、そのまま寝てしまいました。
するとそれを見たおばあさんが、あきれて言いました。
「小僧さま。口に物を入れてすぐに寝ると、牛になってしまうぞ」
そしてそう言っている間に、小僧さんは本当に一匹の黒牛になってしまったのです。
「あれ」
「なんと!」
おじいさんとおばあさんはびっくりしましたが、二人にはどうする事も出来ないので、そのまま黒牛を家で飼う事にしたのです。
さて、この黒牛はとても力が強くて良く働く牛だったので、おじいさんとおばあさんの暮らしはたちまち良くなりました。
そしてこの事を、隣に住む欲深いおばあさんが知ったのです。
「わしも小僧を牛にして、暮らしを楽にしよう」
欲深いおばあさんは、家の前を小僧さんが通りかかるのを毎日毎日待っていました。
そんなある日、おばあさんの家の前を一人の小僧さんが通りかかったのです。
おばあさんはその小僧さんを強引に家へ入れると、無理矢理にごちそうを食べさせました。
そしてごちそうを食べ終えた小僧さんに、早く寝るように言ったのです。
でも小僧さんは、首を振って言いました。
「いいえ。食べてすぐに寝ると牛になると言いますので、寝る事は出来ません」
すると欲深いおばあさんは、ゴロンと横になって言いました。
「人が牛になるなんて、うそに決まっている。わたしが先に寝てみせるから、小僧さまも一緒に寝てくだされ」
そう言っている間に、欲深いおばあさんはたちまち黒牛になってしまったのです。
その後、黒牛になったおばあさんは、一生、小僧さんを背中に乗せて旅をする事になりました。
おしまい
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