むかしむかし、インゲルという、貧しい家の娘がいました。 インゲルは、うわべばかり気にする様な心も貧しい娘です。 ある日、主人が言いました。 インゲルは貧乏な家には帰りたくないけれど、美しくなった自分を見せびらかしたくて出かけて行きました。 でも、家の近くでたきぎ拾いをしていたお母さんを見た時、 「まあ、汚らしい!」 と、顔をそむけました。 そしてとうとう、インゲルは家に帰りませんでした。 主人は、こんがりと焼けた大きくておいしそうなパンをお土産に持たせました。 と、インゲルが歩いて行くと、途中に沼がありました。 「これでは、せっかくの靴が汚れてしまうわ。えいっ」 そして靴を汚さない様に、その上に足をのせました。 手も足も、凍り付いた様に動きません。 ふと目を開けると、目の前で沼女がくさいお酒をつくっていました。 ちょうどそこに遊びに来ていた悪魔(あくま)のおばあさんが、インゲルを見るとニタリと笑いました。 「おや、なかなかいい娘じゃないの。もらっていこう」 おばあさんは、心の貧しい人間を集めているのです。 その列の中に、インゲルも並べられました。 インゲルの美しい顔の上に、気味の悪いヘビやヒキガエルがベッタリとくっついていました。 「ああ、この汚いパンでもいいから、食べたいわ」 「お父さーん! お母さーん!」 沼に沈むのを、ウシ飼いが丘の上で見ていたのです。 「バチ当たりめ、パンを踏むからさ」 と、誰も良い事は言いませんでした。 でも、その中でたった1人、話を聞いて泣き出した女の子がいました。 「可愛そうに。 その人がもし、この世に戻って来たら、わたし、お人形箱をあげるわ」 やがてその女の子はおばあさんになり、神さまにめされました。 「わたしだって、インゲルの様な間違いをおかしたかもしれません。どうか、インゲルを助けてあげてください」 その優しい心に、天使(てんし)の1人がホロッと涙をこぼしました。 涙は沼に落ちて行って、インゲルの胸に入りました。 やさしいおばあさんのおかげで、インゲルは地上に戻る事が出来たのです。 小鳥はお腹の空いた鳥たちにパンくずを拾っては与え、自分は食ベませんでした。 そしてそのパンくずがドロ水に投げたパンと同じ量になった時、小鳥はカモメになって飛び立ちました。 はるか、遠い太陽に向かって。 それから、その鳥を見た者はいません。 おしまい |
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