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1月16日の日本の昔話
  
  
  
  うたよみゆうれい
 むかしむかし、あるところに、あきやがありました。
  「あきやのままでは、もったいない」
   大家さんが、「貸し家(かしや)」のふだをはると、すぐにかりる人がみつかりました。
   ところが二、三日すると、大家さんにあいさつもなく、かりた人がでていってしまいました。
   また、あきやです。
   大家さんがあらためて、「貸し家」のふだをはると、こんどもすぐに、かりる人がみつかりました。
   ところがまた、二、三日もすると、かりた人が、だまってでていってしまいました。
   こうしたことが、なんどもくりかえされるので、
  「いったい、どうしたわけだろう?」
   大家さんがくびをひねっていると、
  「なんだ。大家さんのくせに、しらないのかい。まいばん、ゆうれいがでるってうわさだよ」
   とおりがかりの人が、おしえてくれました。
   うわさは、町じゅうにひろがりました。
   こうなると、かりる人もいません。
   大家さんがこまっていると、町でいちばんどきょうのいい男がやってきて、
  「おれが、ゆうれいをみとどけてやろう」
   あきやにとまることにしました。
   男がざしきのものかげにかくれて、ゆうれいがあらわれるのをまっていると、家のおくのほうからミシッ、ミシッ。
   あやしげなもの音がしたかとおもうと、ながいかみをおどろにみだした女のゆうれいがあらわれて、いろりのふちにすわりました。
   ゆうれいは、いろりの灰をかきまぜながら、
  「かきまぜる灰は、はまべのいろににて」といって、なきだしました。
   それを、なんどもくりかえすので、ものかげの男は、
  (これはきっと、うたのうしろはんぶんができないために、まいばん、でてくるのだろう)
  と、かんがえました。
   そこで、ゆうれいがまた、「かきまぜる灰は、はまべのいろににて」といったときに、すかさず、
  「※ゆるりが海か、おきのみゆるに」
   うたのうしろはんぶんを、いってやりました。
   すると、ゆうれいは、あんしんしたらしく、
  「いいうたができて、これでもう、心のこりはありません。どうもありがとうございました」
   おれいをいってきえ、二どとあらわれなかったそうです。
※ゆるりは、いろりの事。おきは、海のおきと、いろりのおき火をひっかけたことば。
おしまい