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1月21日の日本の昔話

無用の位

無用の位

 むかしむかし、ある山国の村に、伊助(いすけ)という、たいそう正直ではたらき者の男がいました。
 身よりのない伊助は、朝から夜ふけまで、村人のてつだいをしては、くらしをたてています。
 ある年のこと、伊助は都へほうこう(→他家に住みこんで、家事や家業に従事すること)にあがることになりました。
 伊助がほうこうしたのは、たいそう位の高い公卿(くぎょう)さまのやしきでした。
 伊助は、水くみ、まきわり、ウマ小屋のそうじと、一日じゅう休みなくはたらきつづけました。
 そして、長い長い年月がたちました。
 年をとった伊助は、故郷(こきょう)がこいしくなり、
「ああ、村に帰りたいのう」
 とうとう伊助は、公卿さまにおねがいしました。
「どうか、おいとまをくださりませ」
「勤めがつろうなったか?」
「いいえ、こきょうに帰って、なつかしい人たちとくらしとうございます」
「そうか」
 公卿さまは、伊助がよくはたらいた礼に、位をさずけて、こきょうににしきをかざらせてやろうと思いました。
「これ伊助、近うよれ」
と、伊助の頭にかんむりをのせると、
「伊助、位をいただいたからには、いつもたいせつに身にまとうのだぞ」
「は、はい」
 かんむりをつけた伊助は、なにやら自分がえらくなったような気がしました。
 村人たちは、何十年ぶりに帰ってきた伊助のすがたにおどろき、そしてよろこびました。
「伊助、りっぱになったもんじゃ」
「ほんに、伊助さんは村のほこりじゃ」
 口々にほめられた伊助は、つんととりすまして、
「なに、それほどもないわい」
 伊助は広い土地を手に入れ、大きな家をたてはじめました。
 そんな伊助に、むかしなじみの友だちが声をかけます。
「伊助、畑にゃ、なにうえるだ?」
「これ! 口のきき方がわるいぞ!」
 伊助のえらそうなたいどに、むかしなじみの友だちもビックリ。
 村の衆は、はじめのうちこそ大かんげいでいろいろ世話をしましたが、やがて、だれも伊助に近づこうとはしなくなりました。
 ある日、伊助は村の衆が、立ち話をしているのを聞いてしまいました。
「伊助さんは、なんで、ああいばりくさっとるんじゃ」
「位なんかさずかると、ああも人間がかわるもんかのう。まるでばけものじゃ」
 伊助は、ハッとしました。
「そ、そうか。このかんむりのために、お、おらは」
 伊助は、はずかしさでいっぱいになり、すぐに都へと旅立ちました。
「なに、位を返したいとな?」
「はい、公卿さま。わたしは、こきょうで、みんなとなかよくくらしたいと思っとりました。ところが、位をさずかったばかりに、ひとりぼっちでさびしくくらすはめになりました。わたしのようなものにとっては、この位は無用の長物(むようのちょうぶつ → あっても、かえってジャマになるもの)なのです。これはお返しします」
 位を返した伊助は、とぶようにこきょうへもどりました。
 村の衆は、すっかり百姓(ひゃくしょう→詳細)らしい身なりで帰ってきた伊助をみて、
「どうしたんじゃ。そのなりは?」
「かんむりも着物も、位といっしょにきれいさっぱり返してきたわい」
 そういうと、伊助はすぐに畑に出てはたらきはじめました。
 それからというもの、伊助はみんなと仕事にはげみ、なかよくつきあいながら、しあわせにくらしたそうです。

おしまい

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