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1月23日の日本の昔話
  
  
  
  カニのすもう
 秀吉(ひでよし)は大阪城(おおさかじょう)という、大きなお城にすんでいました。
   大阪城にはきれいな池があって、そこに金でつくったカニがおいてありました。
   一匹や二匹ではありません。
   大きいのやら、小さいのやら、何百匹ものカニが、キラキラとかがやいていました。
   ところが秀吉は、こんど京都に新しい城をつくったので、そちらにうつることにしたのです。
   そこで秀吉は、この池の金のカニをけらいたちにわけてやることにしました。
  「ただし、だれにでもやるのではない。なぜカニがほしいか、どういうことにつかうか、わけをいうがよい、わしが、それならカニをやってもよいと思うようなわけをいったものに、やることにしよう」
   秀吉は、けらいたちの顔をみまわして、そういうのです。
   みんなは首をひねって、なんといえば、あのカニをもらえるだろうかと考えました。
   そのうち、ひとりがすすみでて、
  「殿さま。わたくしは、とこのまのかざりものにしたいと思いますので、ぜひ、一ぴきくださいませ」
  「おお、とこのまのかざりか。それならよかろう。大きいのを一ぴきつかわそう」
  「ありがとうございます」
   そのけらいは、大きいカニを一ぴきもらって、とくいそうな顔をしています。
   すると、もうひとりのけらいが、
  「わたくしは、紙をおさえるぶんちんにしたいと思いまして」
  「そうかそうか。ではおまえには、ぶんちんに中くらいのを、一ぴきやろ言う」
  「わたくしは、子どもや孫の代まで、いいえ、もっと先までつたえて、家のまもり神にしたいとぞんじます」
  「わたくしは、・・・」
   みんなつぎからつぎへと、いろいろなことをいってはカニをもらいました。
   ところが、曽呂利(そろり)さんだけは、だまってそれをながめているばかりで、なにもいいません。
  「これ、曽呂利。おまえはさっきからなんにもいわないが、ほしくはないのか?」
   秀吉がたずねると、曽呂利はつるりと顔をなでて、
  「いえいえ、もちろんいただきとうございます。しかし」
  「しかし、どうした」
  「わたくしがつかいますのは、一ぴきではたりませんので」
  「なに、一ぴきではたりぬと。ふむ、いったい、なににつかうのじゃ?」
  「はい。わたくしはいさましいことがだいすきでございますので、あのカニにすもうをとらせてみたいのでございます」
  「ほう、すもうか。それはおもしろい。では二ひきいるのじゃな」
  「いえいえ、すもうはやはり、東と西にわけて、よこづな、おおぜき、こむすびと、まくしたまでそれぞれいなければ、おもしろくありませぬ」
  「なるほど。それもそうじゃ。それでは曽呂利、のこりのカニは、みんなそちにやろう。もっていけ」
  「はっ、ありがとうございます」
   曽呂利さんは、ニコニコ顔で、のこりのカニをかきあつめて、もっていってしまいました。
   カニをもらいそこなったけらいたちは、
  「曽呂利め、すもうとは考えたな。わしは、武者合戦(むしゃがっせん)とでもいえばよかった」
と、くやしがりました。
おしまい