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2月11日の日本の昔話

笛の名人

笛の名人

 むかしむかし、京の都に、源博雅(みなもとのひろまさ)という、たいそう笛のじようずな人がいました。
 そのころ都には、五人も十人もで押しかける、集団のどろぼうがいて、人びとは大変困っていました。
 ある晩、博雅(ひろまさ)のやしきにも、このどろぼうが押し入りました。
 手に手に、弓や、なぎなたを持っています。
 どれもこわい顔をした、らんぼうそうな、どろぼうたちです。
 召し使いたちはおどろいて、みんな、思い思いのところへ逃げたり、かくれたりしました。
 博雅もえんの下にかくれて、ジッとしていました。
 やがて、どろぼうたちは品物やお金を取って出ていきました。
 足音も聞こえなくなって、静かになると、
「もう、行ってしまったらしい。出ても、だいじょうぶだろう」
と、博雅は、えんの下からはいだしました。
 召し使いたちも出てきました。
 家の中を見て、みんなビックリ、なにもありません。
「やあ、よく取っていったものだ。こわれたなべのふたまでない」
 博雅は、あきれてしまいました。
 ざしきをあちらこちら、歩いてみますと、置き戸だなが一つ残されてありました。
「どうせ、中の物は持っていってしまったのだろう」
 それでもあけてみると、笛が一本入っていました。
「これはありがたい。よいものを残していってくれた」
 博雅はうれしくて、笛を取ってそこにすわると、静かに吹きはじめました。
 なんと、美しい笛の音でしよう。
 高く、低く、暗い外へ流れていきました。
 博雅の家から引きあげたどろぼうたちは、夜ふけの都を歩いていましたが、
「いい笛の音だなあ」
と、先頭にいたどろぼうのかしらが、ふと足をとめました。
「ほんとうに、いい音色だ」
「いい音色だなあ」
 みんな耳をすませて、ウットリとして聞き入りました。
 聞いているうちに、かしらはじぶんがどろぼうをしてきたことが、恥ずかしくてたまらなくなりました。
 よい音楽を聞いて、心がきよらかになったのです。
「おい、みんな、引きかえそう。取ってきたものをかえすのだ」
 かしらの言葉に、手下たちもうなずきました。
 博雅は、どろぼうたちが引きかえしてきたので、おどろいて笛を吹くのをやめました。
 かしらは、博雅の前に両手をついて、
「あなたの笛の音を聞いているうちに、どろぼうがいやになりました。これからは、よい人間になります。取ったものはおかえしします。どうか、お許しください」
と、いって、あやまりました。
 手下たちも、そろって頭をさげました。
 そして、荷物を置くと、かしらをはじめみんなは、どこかへ逃げていきました。

おしまい

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