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2月17日の日本の昔話
  
  
  
ハマグリ姫
 むかしむかし、若い漁師が、おかあさんとふたりで暮らしていました。
   漁師は、おかあさんを、とてもたいせつにしていました。
   ある日、いつものように小さい舟に乗って、さかなを取りに行きましたが、どうしたのか、一ぴきもつれません。
  「これじゃ、おかあさんの晩ごはんに、あげるものがない。どうしよう?」
   ひとりごとをいっていると、つり糸の先に、何かかかりました。
   引きあげてみると、アメだまぐらいの、小さなハマグリでした。
   漁師はガッカリして、ハマグリを舟の中にほうりだしました。
   ところがふしぎなことに、ハマグリは、みるみる大きくなって、両手でもかかえきれないほどになったのです。
   しばらくすると、貝の中からキラキラと金色の光がさして、貝は二つに割れました。
   そして中から、きれいなお姫さまが現われたのです。
   漁師は、腰を抜かして、
  「あ、あなたさまは、どなたです」
  と、たずねました。
   すると、お姫さまは、
  「わたしは、どこのだれか、じぶんでも知りません。どうぞ、あなたのおうちへお連れください」
  と、悲しそうにいいました。
   漁師は気の毒に思って、お姫さまを家へ連れて帰りました。
   びんぼうな漁師の家に、天女(てんにょ→詳細)が現われたといううわさは、すぐに国じゅうへひろまりました。
   おおぜいの人が天女をおがみに来て、お米やあさのたばをあげていきました。
   お姫さまは、そのあさを糸につむいで、ビックリするほど美しい織物(おりもの)を織(お)りあげました。
   そして、
  「これを都へ持って行って、三千両(二億円ほど)で売ってきてください」
  と、漁師にいいました。
   漁師は都へ行って、一日じゅう、織物(おりもの)の買い手をさがしましたが、三千両というねだんを聞くと、だれもがあきれて買ってくれません。
   あきらめて帰りかけると、おおぜいのお供を連れた、りっぱなおじいさんが来ました。
   漁師は、そのおじいさんに織物を見せました。
  「これは、めずらしい織物だ。ねだんはいくらだ」
  「その、三千両でございます」
  「それは安い! 買ってやるから、やしきまで持ってきなさい」
   おじいさんは漁師をりっぱなご殿へ連れて行って、ごちそうをしたり、おどりを見せたりして、もてなしました。
   それがすむと、けらいにいいつけて、三千両のお金を漁師の家にとどけさせました。
   漁師が帰ってみると、お金はちゃんととどいていました。
   お姫さまは、
  「織物が売れて、よろしゅうございましたね。それではこれで、おわかれいたします。おしあわせに」
  と、いいました。
   漁師とおかあさんはビックリして、
  「まあ、これから三人で、楽しく暮らそうと思っていましたのに」
  と、いっしょうけんめいに、引きとめました。
  「では、ほんとうのことをもうしましょう。わたしは、観音様(かんのんさま)のお使いで、おかあさんをたいせつにしているあなたを、助けるために来たのです。もう、用事もすみましたから帰ります。しあわせにお暮らしなさい」
   お姫さまはそういって、空にまいあがっていきました。
   漁師はみんなから、しんせつなお金持ちとうやまわれて、おかあさんとしあわせに暮らしたそうです。
おしまい