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2月22日の日本の昔話
  
  
  
  つめときばをとられたネコ
 むかしむかし、ある商人の家に、ネコがかわれていました。
   正月が近づいたので、この家でも、もちつきをすることになり、小僧さんたちが、かわるがわるもちをつきます。
   もちの大好きなネコは、うれしくてたまりません。
   これでまた、正月にたっぷりもちを食わせてもらえるかと思うと、ひとりでにのどが鳴ってきます。
   もちつきの翌日、天気がいいので、すすはらい(→掃除)をすることになりました。
   朝早くから主人のさしずで、小僧さんたちが店の中の掃除を始めた。
   ネコは、じゃまになってはいけないと考え、外に出てへいの屋根にのぼりました。
   すると、長いささぼうきを持った小僧さんが出てきて、
  「へいの掃除をするから、家の中へ入っとれ」
  と、言うのです。
   ネコがあわてて家の中へ入ろうとすると、主人が言いました。
  「おまえにウロウロされては、すすはらいができない。外へ出ていろ」
   ネコはこまりました。
   外へ出れば、小僧さんに、
  「中へ入っとれ」
  と、言われるし、中へ入ろうとすると、主人に、
  「外へ出てろ」
  と、しかられます。
  (いったい、どこにいればいいんだ)
   ネコはしかたなくはしごをつたって、天井裏(てんじょううら)へのぼっていきました。
   そこには、ネズミたちが集まっていて、下のさわぎは自分たちを追い出すためだと思いこみ、おびえきった顔をしていました。
   ネコを見て、ネズミの親分が言いました。
  「やっぱりあいつが来た。こうなってはジタバタしても始まらん。みんな覚悟(かくご)せい」
   ところが、ネコはネズミにとびつくどころか、親分の前に行って両手をつきます。
  「今日は、おまえたちを食うために来たんじゃない。なにもしないから、一日だけここへ置いてくれ」
  「それはまた、どういうわけだ?」
   ネズミの親分が首をかしげます。
  「じつは、家のすすはらいで、わしのいるところがないのだ。どこへ行っても、『じゃまだ、じゃまだ』と、ほうきの先で追いはらわれ、くやしいったらありゃしない」
  「それじゃ、おれたちを追い出すさわぎじゃないのか」
  「いくらすすはらいといっても、天井裏まで掃除する者はおらんよ。あのさわぎはおまえたちを追い出すためじゃない」
  「なんだ、そうだったのか」
   ネズミたちはホッとして、おたがいに顔を見あわせました。
   すると、親分が急にいばった態度(たいど)で言います。
  「今日一日、ここに置いてやってもいいが、家賃(やちん)のかわりに、おまえさんの足のつめと、きばを残らず渡してくれ」
  「なんだって!」
   ネコがおどろいて聞きかえしました。
  「いやなら、すぐ出ていってくれ。家賃を払わないでここにいるというなら、わしらにも覚悟がある。ここにいるものみんなが死ぬ気でかかれば、おまえさんだって倒せないはずはない」
   それを聞いて、ネズミたちが、いっせいに立ちあがりました。
  「わかった。わかった。おまえの言うとおりにするよ」
   ネコは、泣く泣く足のつめときばをぬき、親分の前にさしだしました。
  「そんなら、今日一日、ここでゆっくりすごすがいい。ただし、どんなことがあっても、わしらのからだにさわらないこと。といっても、つめときばなしじゃ、どうにもならんがね」
   ネコは、そんなひにくも頭に入りません。
   むりやり抜いたつめときばのあとが痛くて、ネズミのかしてくれたやぶれ座布団(ざぶとん)につかまり、一日中うなっていました。
   やがて夕方になって、すすはらいも終わったらしく、家の中がしずかになりました。
  「お世話になった」
   ネコは痛みをがまんしながら、ゆっくり下へおりていきました。
  「おまえ、どこへ行っていたんだ」
   小僧さんたちが、ネコを見て、もちを持ってきてくれます。
  「さあ、食え。おまえ、もちが大好きだろ」
   でも、きばがなくては、もちどころか、ご飯も満足に食べれません。
  (ふん、さんざんじゃまものにしておきながら、いまさらなにを言うか)
   ネコは腹をたて、こたつの中へもぐりこみました。
   そこへ主人がやってきて、
  「よし、今日は、みんなつかれているだろうから、早く寝てよいぞ」
   小僧さんたちは、すぐにとこへつきました。
   ところが、こたつの中にいるネコを見つけた主人は、
  「こら、おまえは寝ちゃいかん。ネズミにもちをとられないよう、しっかり番をするのだ」
  と、言って、ネコを引きずり出し、台所へつれていったのです。
   ネコは台所にすわって、むしろに広げられたもちをうらめしそうに見ています。
   みんなが寝しずまったころ、急に天井裏がさわがしくなり、親分を先頭にネズミたちがゾロゾロとはしごをおりてきました。
  「さあ、みんな、どんどん運ぶのだ」
   親分は、ネコに目もくれません。
   ネコはたまりかねて、
  「おいおい、わしがここにいるのがわからんのか。もちを持っていくと承知(しょうち)しないぞ」
   それを聞いて、親分がわらいだします。
  「そんなら、わしらをつかまえようというのかい。つめもきばもなくて、どうやってつかまえる」
  「・・・・・・」
   ネコは、なにも言いかえすことができません。
   くやしいのをガマンして、ネズミたちがもちを運ぶところを見ているより、しかたありませんでした。
   ネズミたちはすっかりあんしんして、しっぽでもちをまくやつやら、せなかにのせてしっぽでおさえるやつやら、思い思いのかっこうで、はしごをのぼっていきます。
   親分が、ネコの前に立って歌をうたいだしました。
  ♪ひけよひけよ、もちをばひいて。
  ♪はや行く年を、おいたてて。
  ♪また来る年を、むかえよや。
   ネズミたちも、それにあわせて、いっしょにうたいながら、はしごをなんどもおうふくしました。
   それでもネコは、なにもすることができません。
  「よし、このへんでいいだろう」
   すきなだけもちを運びおえた親分は、ネコをふりかえり、
  「それじゃ、よいお正月を」
  と、言って、みんなの後からはしごをのぼっていきました。
   次の朝、台所にやってきた主人は、もちがちらばっているのを見て、ガッカリするやら、腹をたてるやら。
  「あれほど言ったのに、ネズミの番もできないのか!」
  と、言って、ネコをなぐりつけました。
   気のどくに、ネコはからだがはれあがり、おまけにきばもつめもないので、もちが食えず、泣き正月をおくることになったのです。
   いっぽうネズミは、もちをたらふく食って、おおよろこびの正月をおくったそうです。
おしまい