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4月10日の日本の昔話
  
  
  
  かるい帰り道
 むかしむかし、彦一(ひこいち→詳細)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
   ある春の日のこと。
   殿さまが、お花見にでかけることになりました。
   おそばにつかえる、二十人ばかりの家来たちといっしょに、殿さまお気に入りの彦一も、連れて行ってくれることになりました。
   お花見の荷物がそろって、いよいよ出かけるというとき、殿さまが、おともの者たちに言いました。
  「さて、きょうはみんなに、花見の荷物をはこんでもらおう。どれでもよい。すきなものを持っていくがよいぞ」
   家来たちは、
  (よし。なにを持っていこうか)
  と、まえにならんだ荷物を、グルリと見まわしました。
   殿さまがこしをかけるいす、下にしく毛せん、ご紋(もん)の入ったかこいのまく。
   茶わんや皿や土びん。
   つづみやたいこなどの、鳴物道具(なりものどうぐ)。
   とっくりやさかづきなどの、酒もり道具。
   歌をよむときの筆やすずりやたんざくなどもあります。
   家来たちは、われ先にと、かるい荷物をえらんでいきます。
   ところで、家来たちにえんりょして、ジッと最後まで待っていた彦一が、のこっている荷物はと見ると、竹の皮にくるんだにぎりめしや、おかずの入っている包みだけでした。
  (ははん、重いから持ち手がいないな。しかし、いい物がのこってくれたぞ)
   彦一は、わざとガッカリした様子で言いました。
  「なんと、こんなに重たい物しか残っていないとは」
   そして、弁当の包みをかつぐと、みんなのあとをついて行きました。
   だれも持ちたがらない、重い包みをかついでいる彦一を見た家来たちは、
  (知恵者とひょうばんじゃが、あんなものをかつぐとは、バカなやつじゃ)
  と、クスクス笑っています。
   中には、わざわざ彦一のそばまできて、
  「彦一どの。重たい荷物を、ごくろうじゃな」
  と、ひやかしていく者もいます。
   さて、一行がお目当ての山についたのが、お昼の少し前です。
   家来たちは、かこいのまくをはり、毛せんをしいて荷物をひろげると、彦一の持ってきたお弁当を食べることにしました。
   それからあとは、花をながめるやら、おどるやら、歌をつくるやら、酒もりをするやらして、みんな思うぞんぶん楽しみました。
   そして、いよいよお城ヘ帰るということになりました。
   そこで、家来たちが持ってきた荷物をかたづけていると、彦一が殿さまに言いました。
  「殿さま。このままおなじ道を帰るのは、どうもちえがなさすぎます」
  「ふむ」
  「ごらんくだされ。むこうの山も、あのとおりみごとな花ざかり。いかがでしょう。ひとつあの山の花をながめながら、お帰りになっては」
  「なるほど、それはよいことに気がついたな」
   殿さまは、大喜び(おおよろこび)で、さっそく家来たちに言いました。
  「せっかくここまできたのじゃ。むこうを山ごえして帰るぞ。まだ日も高いし、ゆっくりと、あちらの花もながめて帰ろうと思うが、どうじゃ?」
   家来たちは、荷物をかついで、これからむこうの山をこえるなんてまっぴらと思いましたが、殿さまの言葉には逆らえません。
  「はい。おともいたしましょう」
  と、しんみょうに頭をさげました。
   そこで彦一は、
  「では殿さま。ご案内を」
  と、みんなの先にたって歩きます。
   殿さまが家来たちを見ると、みんな荷物を持っています。
   けれど、彦一は手ぶらです。
   ふしぎに思って、殿さまは彦一にたずねました。
  「これ、彦一。おまえの荷物は、どういたした?」
   すると彦一は、ニッコリ笑って、
  「はい、わたしの荷物は、みなさんのおなかの中にございます」
と、言ったのです。
おしまい