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5月5日の日本の昔話
  
  
  
  ちゃくりかき
 むかしむかし、きっちょむさん(→詳細)と言う、とてもゆかいな人がいました。
   ある日のこと、きっちょむさんが、お茶とカキとクリの実をかごに入れると、肩に背負って、
  「さあ、これを売りにいこう」
  と、町へ出かけていきました。
  「さて、茶とカキとクリの実を、どういって売って歩けばいいかなあ?」
  と、きっちょむさんは考えました。
   そして、大きな声で、
  「ちゃくりかき、ちゃくりかき!」
  と、どなって歩いていきました。
   ところが、いくら歩いても、ちっとも売れません。
   とうとうタ方になってしまって、きっちょむさんは一つも売れないかごを背負って、トボトボとうちへ帰ってきました。
   近所の人がそれを見て、
  「おや、なぜそんなに売れなかったのかなあ。きっちょむさんは、いったいどういって売って歩いたのだね?」
  「うん、ちゃくりかき、ちゃくりかきと、どなって売って歩いたのに、ちっとも売れなかったんだよ。変だなあ」
  「アハハハハハッ。そんなわからぬ売り声では、だれも買わないのがあたりまえだ」
  「じゃあ、どういう売り声ならよいのだ?」
  「ちゃくりかきと、一口にいってしまってはだめだよ。茶は茶、クリはクリ、カキはカキと、別ベつにいわないといけないよ」
  と、教えてくれました。
  「なるほど、じゃあ、あすはそういって売ることにしよう」
  と、きっちょむさんは、うなずきました。
   そのあくる日、きっちょむさんは、
  「よし、きょうは、うまくやるぞ」
  と、またかごをかついで、元気よく出かけました。
   そうして、町へやってくると、
  「きのうのように、ちゃくりかきは、だめなんだな。みんな、別べつにいうんだな」
   そして、大きな声で、
  「えー、茶は茶で別ベつ。クリはクリで別ベつ。カキはカキで別ベつ」
  と、どなり続けましたが、やはり、だれも買ってくれる人はいません。
   ガッカリしたきっちょむさんは、
  「やれやれ、きょうも、ちっとも売れない」
  と、重いかごを背負って、うちへ帰ってきました。
   近所の人がそれを見て、
  「あれ、また売れなかったんだね。いったい、どんな売り方をして歩いたんだい?」
  「うん、きのうおそわったとおりに、別ベつにいったよ。茶は茶で別ベつ。クリはクリで別ベつ。カキはカキで別ベつと、そういって歩いたんだ」
  「なんてまあ、あきれた呼び方だ。それじゃあ、三つも売れないのがあたりまえだ」
   そういって、大笑いしました。
おしまい