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5月12日の日本の昔話
  
  
  
  いうな地蔵
 むかしむかし、あるところに、すぐにけんかをする、あばれもののばくちうちがいました。
   大きなからだの力持ちですが、はたらきもしないで、
  「なにかええことはねえもんかなあ」
  と、まいにち、ブラブラしています。
   ところがある日、ばくちうちは、
  「おれもこの土地さえでたら、ちったあ運がまわってくるかもわからん」
  と、考えて、ヒョッコリと旅に出ました。
   けれども、運がまわってくるどころか、持っていたお金をすべて使い果たしてしまい、
  「あーあ、はらはへってくるし、銭はなし。どうしたものか」
  と、とほうにくれて、とうげのお地蔵(じぞう)さんの前にこしをおろしていると、下のほうから大きな荷物を重そうにかついでくる、ひとりの男がいました。
  「これはしめた。あのなかにゃ、うめえもんがどっちゃりへえってるにちげえねえ。ひとつ、あいつを殺してとってやれ」
   ばくちうちは、近づいてきた男に声をかけました。
  「おいこら! いったいなにかついどるんじゃい!」
   いきなりどなられた男は、ギョッとして、
  「こっ、こりゃ食いもんじゃ」
  「そんなら、みんなおいていけ! 銭も持ってるなら銭もだせえ!」
  と、ばくちうちは男のかついでいる荷物をつかむと、むりやりひきずりおろそうとしました。
  「い、いや、これはやれん。うちに持ってかえって食わせなならん。子どもらが、はらすかしてまっとんじゃ」
  「そんなことはしらん! よこさんと殺すぞ!」
   ばくちうちは荷物を取り上げると、必死に取り返そうとする男をなぐりつけて、とうとう殺してしまいました。
  「ふん! すぐにわたさん、おまえが悪いんじゃ」
   ばくちうちはまわりを見わたして、人がいないことを確かめると、そばにあったお地蔵さんにいいました。
  「おい。見ていたのはおまえだけじゃ。だれにもいうなよ」
   そして、そのまま荷物を持って立ち去ろうとすると、お地蔵さんが、とつぜんしゃべりました。
  「おう、わしはいわんが、わが身でいうなよ」
   そして、ニヤリとわらったのです。
  「じ、地蔵がしゃべった!」
   ビックリしたばくちうちは、いそいで荷物をかつぐと、山道をころげるように走り去りました。
   それから何十年もすぎた、ある日のことです。
   あのばくちうちは、まだ旅をしていました。
   今ではずいぶん年もとって、どちらかといえば、人のよいおじいさんになっていました。
   旅のとちゅうで、ひとりのわかものと知りあい、そのわかものとすっかり仲がよくなって、ずっといっしょに旅をつづけています。
  「あの山をこえたところに、おらのうちがあるんじゃ。ぜひよっていってくれ」
   わかものにそうさそわれて、ばくちうちは、
  「そうか。では、ちょっとよせてもらおうか」
   話がまとまり、さっそくいそぎ足になったふたりがさしかかったのが、あのお地蔵さんのあるとうげでした。
   ばくちうちがお地蔵さんを見てみると、あの日のことなどまるでうそのように、お地蔵さんの口は一の字にしまっています。
   ばくちうちはつい、なかのよいわかものに、このお地蔵さんのことをしゃべりました。
  「おい、おもしろいこと教えてやろうか?」
  「ああ、なんじゃ」
  「じつはな、この地蔵さんはしゃべるんじゃ」
  「お地蔵さんがしゃべったりするかえ」
  「ほんとうじゃ。げんにこの耳で、ちゃんときいたんじゃ」
  「じゃ、なんてしゃべったね」
   そうきかれて、ばくちうちは、
  「いいか、ぜったいにだれにもいうてくれんなよ。おまえだけにいうんじゃでなあ。ぜったいじゃぞ」
   なんどもなんどもねんをおすと、
  「もう、ずいぶんむかしのことじゃ。そのころはまだ、おらもわかかったで、ずいぶん悪いこともしてきた。・・・じつはおら、ここで人殺してしまったんや。その殺した男というのが、・・・」
   わかものに、あの日のことを全部話してしまいました。
   それを聞いていたわかものの顔が、えんま大王のように、みるみるまっ赤になってきました。
  「うん? どうした、こわい顔をして」
   わかものは、ばくちうちをにらみつけると、
  「それはおらの親じゃ、かたきうちをしてやろうと、こうして旅をしながらさがしていたが、かたきはあんたじゃったのか。おのれ、親のかたき! かくご!」
   わかものはそうさけぶなり、ぬいた刀できりかかりました。
   ふいをつかれたばくちうちは、あっというまに、殺されてしまいました。
   そしてそのとき、あのお地蔵さんがしゃべったのです。
「ばかな男じゃ、わしはだまっていたのに、自分でしゃべりおったわい」
おしまい