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6月3日の日本の昔話
  
  
  
  ばけもの寺のしゃみせん
 むかしむかし、あるところに、だれもすんでいないオンボロ寺がありました。
   その寺は、おそろしいばけもの寺だといううわさです。
   とまったらさいご、だれひとり、ぶじにかえってきません。
   あるとき、気のつよい男が、
  「アッハハハハ。ばけものぐらい、おれがたいじしてみせるわ」
  と、ばけもの寺へとまりにいきました。
   男はもってきたさけをのみながら、ばけものがあらわれるのを、いまかいまかとまっていました。
   するとてんじょうから、スルスルスルッと、なにかがさがってきました。
   みると、しゃみせん(→詳細)の弦楽器で、胴体部に、ネコやイヌの皮を張るのが特徴)です。
  「なんだ、しゃみせんではないか。どれ、ひまつぶしにひいてみるか」
   男がしゃみせんに手をのばすと、
   ペタリ。
   手がくっついて、はなれません。
  「ややっ、これはいかん」
   男はしゃみせんを、足でけとばそうとしました。
   すると、足もペタリ。
   くっついてしまい、どうしてもはなれません。
  「こりゃあ、どうしたことだ。なんとかせねば!」
   男があせってもがくと、かみの毛も顔も、しゃみせんにくっついて、どうにもなりません。
  「わあーっ、助けてくれー!」
   男が泣きさけぶと、しゃみせんは男をくっつけたまま、こんどは、スルスルスルッと、てんじょうにあがっていきます。
   そしてとうとう、てんじょううらにひそんでいたばけものに、たべられてしまいました。
   さて、やがてこの村に、たびのお坊さんがとおりかかって、ばけもの寺のことを耳にしました。
  「ばけものですか。では、わたしがとまってみましょう」
   お坊さんがいうと、
  「とんでもねえ」
  「ばけものに、くわれてしまうだよ」
   村の人たちがとめました。
  「いや、しんぱいはいりません。あしたの朝、ようすをみにきてください」
   お坊さんが、ばけもの寺にとまると、てんじょうからスルスルスルッと、しゃみせんがさがってきました。
   でも、お坊さんは手をだしません。
  「てんじょうに、なにかいるようだ。・・・そこだな!」
   お坊さんは、もっていたつえを、てんじょうになげつけました。
   ギャーッ!
   てんじょうで、ものすごいこえがしましたが、そのまましずかになりました。
   朝になり、かけつけてきた村の人と、てんじょううらをのぞくと、たくさんの人の骨といっしょに、人よりも大きなクモが死んでいたということです。
おしまい