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6月6日の日本の昔話
  
  
  
  百目(→詳細)のアズキとぎ
 むかしむかし、たびの男が、ひとりでさみしい山みちをあるいていました。
  「ああ、日はくれるし、はらはへるし、こころぼそいことになってしまった」
   男がトボトボと歩いていくと、どこからともなく、
   ショキショキ、ショキショキ
  と、アズキをとぐような音がしました。
  「やれやれ、このあたりに家があるらしい。うちのひとがアズキをといでいるんだろう。いって、とめてもらおう」
   男が音のするほうへいくと、どうしたことか、音がピタリとやんでしまいました。
   あたりは草はらで、家などみあたりません。
   よくみると、足もとにアズキのつぶがちらばっているだけでした。
   男がちらばったアズキつぶをながめていると、そのひとつぶがピョンとうごいて、ピョンピョンピョンとにげだしました。
  「まてまて、どこへいくんだ」
   男がおいかけていくと、アズキつぶが、おはかのところでみえなくなってしまいました。
  「こりゃあ、いやなところに、きてしまったわい」
   男はあわてて、おはかをはなれました。
   すると、さっきのアズキつぶが、うしろからおいかけてきます。
   ところが、男がふりかえると、アズキつぶはピョンときえるのです。
   男はうすきみわるくなって、かけだしました。
   しばらくいくと、だれもすんでいない一けんのあばらや(→あれはてた家)がありました。
  「これはありがたい」
   男があばらやに入って、ホッとしていると、
   ショキショキ、ショキショキ
   また、アズキをとぐような音がきこえてきました。
  「おっかねえ、おっかねえ。あれは、アズキとぎのばけものかもしれん」
   男はふとんをあたまからかぶって、ねることにしました。
   ところが、アズキとぎの音は、ますますせまってきて、
  「おーい、あけろ! ドンドンドン!」
   戸をたたくではありませんか。
   男がしかたなく戸をあけると、赤らがおの大きなばけものがたっていました。
   その顔には、なんと、目が百もついています。
   男が「ぎゃっー!」と、さけんで、にげだそうとすると、アズキとぎのばけものが、ながいうでをのばして、男をつかみあげました。
   つぎの朝、あばらやにはアズキがちらばっていただけで、男はかげもかたちもなくなっていました。
おしまい