
  福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 6月の日本昔話 > 夕やけナスビ
6月7日の日本の昔話
  
  
  
  夕やけナスビ
 むかしむかし、ふかいふかい山の中に、鬼山村(おにやまむら)という村がありました。
   この村の人たちは、人とつきあうのをひどくきらって、村から外へでることがありません。
   ところが、村はひどい山の中にあるので、生活にひつような塩がないので、それで塩を買うときだけは、いくら人ぎらいのこの村の人たちも、しかたなく浜野村(はまのむら)まで、塩を買いにいくのでした。
   けれど、自分のすがたを見られるのがいやで、買いものをすませると、まるで消えるように、さっさとかえってしまうのです。
   それで、よその村の人は、ほとんど鬼山村の人のすがたを見たことがなかったのです。
   さて、ある日のこと。
   浜野村の男が、鬼山村の人をからかってやろうと、よせばいいのに、ひとりで村をたずねていきました。
   ところが、村の中には人影どころか、ネコの子一ぴき見えません。
   これでは話にならないので、だれでもいいから、外によびだしてやろうと、男は大声でさけびました。
  「おらの畑のナスビは、すごくでっかくて、たくさんあるんだぞ」
   それでも、だれも外へはでてきません。
   こんどは、まえよりもっと、大きな声でさけびました。
  「おーい! おまえんとこの塩をちっとくれたら、おれのひろいひろい畑のでっかいナスビを、みんなみんなくれてやるぞう!」
  と、でまかせをいったのです。
   それでも、家からは誰もでてきません。
  「ちえっ。ばかなやつらだ」
   ぶつぶついいながら、自分の村のほうへかえってきました。
   すると、どうでしょう。
   たくさんのナスビが、夕やけの空をうずめるようにして、自分の頭の上を、とんでいくではありませんか。
   浜野村から鬼山村へと、金銀の玉のようにキラキラ光りながら、とんでいくのです。
  「もしかして!」
   あわてて男が自分の畑にきてみると、なんと、ナスビは一つのこらずなくなって、ただ一面のぼうず畑になっていたのです。
   男がガッカリして家にかえってみると、家の門の前に、塩が一つまみ、チョコンとおいてあったそうです。
おしまい