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12月4日の日本の昔話
  
  
  
  クモ女
 むかしむかし、たびの小間物売り(こまものうり→化粧品などを売る人)が、小さな古いお堂を見つけました。
  「おおっ、今夜は、あそこをお借りしよう」
   小間物売りがお堂に入ると、中はクモの巣だらけです。
  「なんと、きもちわるい。だが、今夜は寒いし、しかたがないか」
   小間物売りは外に出て、枯れ木や木ぎれをひろってくると、いろりで、もやしはじめました。
   ようやく、からだもあたたまり、つい、ウトウトとしたときです。
   小さな手燭(てしょく→携帯用のロウソク立て)をもった女の人が入ってきました。
   ゾゾッとするくらい、美しい人です。
  「すみません。るすにしまして」
  「ああ、いや、こちらこそ。勝手にあがりこんで、申し訳ない」
  「せっかくおいでいただいたのに、何もさしあげられません」
  「いや、野宿しても、つゆでぬれて、ねられるもんではありません。ここをかしていただいて助かります」
  「では、おなぐさみに、三味線(しゃみせん→詳細)などきいていただこうかしら」
   女の人は三味線をかかえてくると、
  ♪シャン、シャン、シャン
  と、かきならしました。
   なんともいい音色で、思わずききほれていると、首すじのあたりがしめつけられるようで、息がつまりそうになりました。
   手をやると、細い糸が何本もまきついているではありませんか。
   小間物売りは、ねばつく糸を一本一本むしりとりました。
  「どうかなさいましたか?」
  「いえ、なんでもありません。どうかおつづけください」
   女の人は、三味線をかきならしました。
  ♪シャン、シャン、シャン
   するとまた、糸がしつこくからまってきて、首をしめつけてきます。
   小間物売りは、ふところから小刀をとりだすと、糸をざっくり切りました。
   女の人はそんなことは、気もつかないふうで、三味線をかきならしていました。
   目をこらして見ていると、なんと女の人の着物のすそから、細い銀色の糸がスルスルのびてくるではありませんか。
  (さては、この女の正体は!)
   小問物売りはむちゅうで女の人にとびかかり、小刀で切りつけました。
  「ウギャャャャーーーー!」
   女はけたたましい悲鳴をあげると、外にころがり出ました。
   小間物売りは、外に出ていくのがこわくて、ただ、ガタガタとふるえていました。
   明るくなって、小問物売りがおそるおそる出てみると、お堂の外には、あみがさのような大グモが死んでいたのです。
おしまい