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        4年生の日本民話(にほんみんわ) 
          
          
         
旅のどろぼう 
山口県の民話(みんわ) 
       むかしむかし、お金を持っている旅人について歩いて、すきを見てお金をぬすむドロボウを、『ゴマのハエ』と呼(よ)んでいました。 
   さて、ある日の事、ある侍(さむらい)が大切なお金をある場所にかくし持って、江戸(えど)から旅に出ました。 
   すると、見知らぬ男がやってきて、気やすく話しかけてきました。  
   人のよさそうな男で、とても悪人には見えません。  
   男がどこまで行くのかと聞くので、侍(さむらい)が答えました。 
  「せっしゃは、下関(しものせき)までじゃ」 
  「おお、そいつはよかった。実は私(わたし)も下関(しものせき)までまいりますゆえ、どうかお供(とも)させてくだされ」 
   そこで二人は同じ宿にとまって、一緒(いっしょ)にふろへ入ったり、一緒(いっしょ)に食事をとったりしました。 
   最初(さいしょ)は何ともなかったのですが、大阪(おおさか)をすぎ、姫路(ひめじ)をすぎ、岡山(おかやま)をすぎるころ、男の様子(ようす)が少し変(か)わってきたので、侍(さむらい)はあやしいと思い、思い切って男に、ドロボウではないのかとたずねました。 
   すると男は、地面に頭をこすり付(つ)けるようにして言いました。 
  「ははーっ、言い訳(いいわけ)はいたしません。実はわたしは、ゴマのハエなのでございます。お侍(さむらい)さまが大金をもっていなさるとにらんで、ついてまいりましたが、どうやっても、どこに隠(かく)しておいでか、わかりませぬ。わたしの負けでございます。もしお見逃(みのが)しいただけるのでしたら、このまま退散(たいさん)いたします」 
   そういって頭を下げる男に、侍(さむらい)は言いました。 
  「やはりそうであったか。本来なら、役人(やくにん)に引き渡(ひきわた)すところだが、何も盗(ぬす)んではおらぬことだし、正直に白状(はくじょう)したので、見逃(みのが)してやろう」 
  「ありがとうございます。では、これにて」 
  と、いって立ち去る男を、侍(さむらい)は引き止めました。 
  「まあ待て。あと一晩(ひとばん)とまれば、次の日には下関(しものせき)に着く。宿代はせっしゃが出すゆえ、もう一晩(ひとばん)ともに過(す)ごそうではないか」 
  「これは重ね重ね、ありがとうございます」 
   その晩(ばん)、侍(さむらい)は宿につくと、今までずっと宿の人にあずけていた雨がさを、部屋の床の間(とこのま)へおいて寝(ね)ました。 
   あくる朝おきてみると、ゴマのハエの男がいなくなっていました。  
  「さすがに、気まずくなって逃げ出(にげだ)したか。まあよい、お主との旅は楽しかったぞ」 
   そして旅支度(たびじたく)をおえた侍(さむらい)が、ふと雨がさに手をやると、雨がさが軽くなっていたのです。 
  「しまった。やられた」 
   侍(さむらい)は、かさのえにかくしていた大金を、まんまと抜き取(ぬきと)られてしまったのでした。 
      おしまい         
         
        
       
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