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        5年生の日本民話 
          
          
         
鳥になったかさ屋 
大阪府(おおさかふ)の民話 
       むかしむかし、河内(かわちのくに→大阪東部(おおさかとうぶ))の国に、かさ屋のまさやんという若者(わかもの)がくらしていました。 
   まさやんは毎日毎日、ただ、だまってかさをはりつづけておりました。 
  「おーい、まさやん、せいが出るのう」 
  「ああ、おかげさんで」 
   まさやんは、通りがかりの村の人が声をかけたときだけしか、声を出しません。  
   天気のよい日には表に道具を出して、空をとぶ鳥を見あげながらしごとをするのが、まさやんのたった一つの楽しみです。  
  「気持ちええやろなあ。あんなふうに空をとべたらなー」 
   そんなある日の事、かさが一つ、風にとばされてしまいました。  
   かさが一本でもなくなれば、その日はごはんが食べられません。  
  「うわっ、待てえ!」 
  と、とんでいくかさを、まさやんはひっしでおいかけました。 
  「とっ!」 
  と、かさにとびつくと、まさやんのからだはフワッと宙(ちゅう)にうきました。 
   でも、すぐに地面におちてしまいました。  
  「おお、いたっ!」 
   ドスンと打ったおしりをなでながら、しばらくポカンと空を見あげていたまさやんは、ふと、おもしろいことを思いついたのです。  
  「そうや、これや!」 
   それから、三日がたちました。  
  (ようし、これから、空をとんでみせる) 
   まさやんは屋根の上に立って、かさをひろげました。  
   これを見た村の人たちは、おどろいて屋根の下にあつまってきました。  
  「おーい、まさやん、そんなところにのぼって、何をはじめるんじゃい?」 
  「へい。これから空をとぼうと思いますねん」 
  「空をとぶ? そんなアホなこと、やめとかんかい」 
  「そやそや、あぶないで」 
   みんながとめるのも聞かず、まさやんはとびました。  
   いえ、とんだつもりです。  
  「うっ、ういたぞ、ういたぞ」 
  と、思ったとたん、見物人の目の前にドスーン。 
  「まさやん、けがはないか?」 
   まさやんは、ちょっぴりはずかしそうに頭をかきながらいいました。  
  「へへへ、だいじょうぶや。だいじょうぶや」 
   それからというもの、まさやんは空をとぶことにむちゅうで、夜も昼もその事ばかり考えていました。  
  「そうや、もっともっと大きいのをつくらんと。大きくてじょうぶなやつを」 
   まさやんは商売のかさはりをほうりだして、ごはんが食べられなくても気にしません。  
   はらがへれば水をのんで、夜中までむちゅうになって空とぶかさづくりをつづけます。  
   それから、何日目かの朝の事です。  
  「でけたぞう。これだけ大きければ、まちがいあらへん。そや、こんどは屋根より高いところからとんでみよう」 
   まさやんは大きなかさを持って、えっちらおっちら歩きだしました。  
   まさやんのお目あては、村で一番高いスギの木です。  
  「でっかいかさやなあ。またとぶつもりやで」 
  「こんどはこの上からとびおりるんか? あんな高いところからとんだら、死んでしまうがな」 
   心配した村の人たちが、いっしょうけんめいとめましたが、まさやんはすこしも気にせずニッコリわらって、スギの木のてっぺんへとのぼっていきました。  
  「うわあ、高いなあ。こうしてながめると、家も人間も小さいもんや。あんな小さな家の中で、ゴチャゴチャいうてくらしとるんかいなあ。それにくらべて、烏(とり)たちは広い広い空でせいせいしとるんやろなあ」 
   そしてとうとう、まさやんはかさをひろげました。  
  「うわっ、かさひろげよった!」 
  「うわっ、とびよった!」 
  「こんどこそ、とぶんか!」 
  と、思ったけれど、またまたしゅっぱいです。 
   でもまさやんは、それでもこりません。  
   夜になると、またゴソゴソなにかをはじめました。  
  「数をふやせば、だいじょうぶや」 
   次の日、まさやんはまた、スギの木の上へのぼりましたが、またもやわらの上ヘドスーン!  
   これを何回、くりかえした事でしょうか。  
   何回やっても失敗するので、いまではもう、見物人もあつまりません。  
   しかし、まさやんはかさをかついで、今日も出かけていきます。  
   村の人たちは、あきれ顔でいいました。  
  「まだやっとる」 
  「病気じゃのう」 
  「アホや」 
   まさやんは、今日もスギの木の上に立ちました。  
   でも、いつもとちがって、すぐにはとびません。  
   なにやら、待っているようすです。  
   しばらくして、ソヨソヨとスギの葉が風でゆらぎます。  
  「きたきた、でも、まだとばへんでえ」 
   だんだん、風が強くなってきました。  
  「よし、いまや!」 
   まさやんは、とびました。  
   フワリ。  
   ひろげたかさと一緒(いっしょ)に、空へまいあがります。 
  「やった! 鳥や、これが鳥の気分や。せいせいするでえ。あはは」 
   まさやんが空をとんだうわさは、殿(との)さまの耳にもとどいて、村は大さわぎとなりました。 
   まさやんの家には、おおぜいの人たちがあつまってきました。  
  「まさやん、殿(との)さまが空とぶかさを買いたいんやと。お金はなんぼでも出すと。殿(との)さまは、そのかさで敵(てき)の城(しろ)を空からせめるおつもりなんや」 
  「それがうまくいってみい。まさやんはお城(しろ)づとめや。いやいや、侍大将(さむらいだいしょう)ぐらいになれるかもしれん」 
   あんなにまさやんの事をバカにしていた村の人たちも、みんなでまさやんをほめはじめました。  
  「たいへんな出世や。うらやましいなあ」 
   ところがまさやんはというと、とってもこまったようすです。  
  「えらいことになったなあ。いっそ、このかさをこわしてしまおうか。いやいや、そんなことしたら、お殿(との)さまのいいつけにそむいたと、殺されてしまうわ」 
   まさやんは、ただ自分が空をとびたくてつくったかさが、いくさの道具につかわれるのがいやだったのです。  
   ひとばん考えたまさやんは、次の日のタ方、かさをかかえてコッソリ家をぬけだすと、スギの木のてっぺんから秋の夕空高くとびたちました。  
   かさをひろげてとぶ人間を見て、鳥たちはビックリ。  
  「鳥よ。一緒(いっしょ)にいこか」 
   かさ屋のまさやんは、そのまま消えてしまったという事です。  
      おしまい         
         
        
       
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