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        5年生の世界昔話 
          
          
         
動物のことば 
セルビアの昔話 → セルビアのせつめい 
       むかしむかし、あるところに、たいそう正直で働きもののヒツジ飼(か)いがいました。 
   ある日のこと、いつものようにヒツジのせわをしていると、森のほうから、シュウシュウと、ふしぎな音が聞こえてきました。 
   ヒツジ飼(か)いが音のするほうへいってみると、火事がおこっていました。 
   見れば、一ぴきのヘビがけむりにまかれて、くるしんでいます。  
   このままでは、ヘビは焼け死んでしまうでしょう。  
  「ヒツジ飼(か)いさん。たすけてください!」 
  と、ヘビはくるしそうに、さけびました。 
   ヒツジ飼(か)いはかわいそうに思って、ヘビにながいつえをさしだしてやりました。 
   ヘビはつえをつたって、ヒツジ飼(か)いの腕(うで)に、はいあがってきました。 
   そしてヒツジ飼(か)いの首に、しっかりとまきついてしまいました。 
   ヘビに首をしめつけられたヒツジ飼(か)いはまっさおになって、ヘビをふりはなそうともがきました。 
  「なんてことをするんだ! たすけてやったのをわすれたのか!」 
  「こわがらないでください。わたしはヘビ王の息子です。父のご殿(てん)まで、わたしをつれていってください」 
   そこでヒツジ飼(か)いは、ヘビを首にまきつけたまま歩きだしました。 
   ながいながいあいだ歩きつづけて、やっと、ヘビのご殿(てん)の門までたどりつきました。 
   ヘビのご殿(てん)の門は、たくさんの生きたヘビをあんで、つくってありました。 
   ヘビの王子が、ピューッと口笛(くちびえ)をふくと、門はサッと開きました。  
   ヘビの王子は、ヒツジ飼(か)いにいいました。 
  「これから父のところへいきましょう。父はきっと、金や銀や宝石(ほうせき)をあげようというでしょう。でも、そういうものをもらってはいけません。そのかわり、動物のことばがわかるようにしてくださいと、たのみなさい。はじめはいやがるでしょうが、どうしてもといえば、のぞみをかなえてくれます」 
   ヒツジ飼(か)いとヘビの王子がご殿(てん)ヘはいっていくと、ヘビの王はなみだを流して喜びました。 
  「息子や。いったいどこへいっていたのだね?」 
  「おとうさま。森で火事にあって、焼け死にそうだったところを、この方にたすけていただいたのです」 
   ヘビの王はそれを聞いて、ヒツジ飼(か)いにお礼をいいました。 
   そして、  
  「お礼には、なにをさしあげよう」 
  と、聞きました。 
  「はい、動物のことばがわかるようにしてくだされば、それだけでけっこうです」 
  と、ヒツジ飼(か)いは、ヘビの王子にいわれたとおりにいいました。 
  「いや、それだけはやめたほうがよい。あなたがふしあわせになるだけです。動物のことばがわかるようになっても、もし、あなたがそのひみつをだれかにはなせば、あなたはたちまち死ぬことになるのですよ。なにか、ほかのものをあげましょう」 
   ヘビの王はなんとかして、ヒツジ飼(か)いの気持をかえさせようとしました。 
   けれども、ヒツジ飼(か)いは聞きいれません。 
  「そうですか。どうしてもいけないと、おっしゃるのなら、あきらめましょう。金も銀も宝石(ほうせき)もいりません。それでは、ごきげんよう」 
   そういって、ヒツジ飼(か)いは帰ろうとしました。 
   ヘビの王は、ヒツジ飼(か)いをひきとめました。 
  「おまちなさい。それほどまでにのぞむのなら、しかたがない。あなたののぞみをかなえてあげましょう。それでは、口をあけなさい」 
   ヒツジ飼(か)いが口をあけると、ヘビの王は、その中につばをはきました。 
   それからこんどは、自分の口の中につばをはくように、ヒツジ飼(か)いにいいつけました。 
   これを三べんくりかえすと、ヘビ王はいいました。  
  「さあ、これで、あなたは動物のことばがわかります。しかし、命がたいせつだと思ったら、どんなことがあっても、このひみつを人にはなしてはいけませんよ。くれぐれも、気をつけるのですよ」 
   ヘビの王と王子にわかれをつげて、ヒツジ飼(か)いは、ヒツジのまっている牧場へ帰りました。 
   まもなく二羽のカラスがとんできて、そばの木にとまると、カラスのことばではなしはじめました。  
  「このヒツジ飼(か)いが、知ったらねえ」 
  「黒ヒツジのねている下に、穴(あな)ぐらがあって」 
  「金貨に銀貨や宝(たから)ものが、たくさんあるんですものね」 
  「ヒツジ飼(か)いにわかったら、どんなに喜ぶだろうね」 
   ヒツジ飼(か)いはそれを聞くと、すぐに主人をよんで聞きました。 
  「この下に、もしかしたら、宝(たから)ものがあるかもしれませんよ」 
   二人が地面をほってみると、荷馬車(にばしゃ)にいっぱいの宝(たから)ものがでてきました。 
   ヒツジ飼(か)いの主人は、たいそうしんせつな人でした。 
  「これはみんな、おまえのものだよ。おまえが見つけたんだからね。これで家をたてて、結婚(けっこん)して、しあわせにくらしなさい」 
   ヒツジ飼(か)いは宝(たから)ものをもらって、家をたてて結婚(けっこん)しました。 
   ヒツジ飼(か)いは、そのあたりでいちばんのお金持になりました。 
   こんどは人をやとって、たくさんのヒツジやウシやブタの番をさせました。  
   ある日、お金持はおくさんにいいました。  
  「あしたは、ヒツジ飼(か)いたちの小屋に、ごちそうを持っていってやろう。酒や食べ物を、たっぷり用意しておくれ」 
   あくる日お金持は、おくさんといっしょに、ヒツジ飼(か)いたちの小屋をたずねました。 
   お金持は、山のようなごちそうをだしてならべました。  
  「さあ、みんな。たべておくれ、飲んでおくれ、うたっておくれ。こんやはわたしがヒツジの番をするから、安心して、たのしむんだよ」 
   お金持は、ひさしぶりに牧場へいきました。  
   やがて、ま夜中になりました。  
   オオカミたちがやってきて、ヒツジの番をしているイヌにむかってはなしかけました。 
  「おい、ちょっとヒツジをもらうよ。あんたたちにも、肉をわけてやるから」 
   すると、イヌたちはこたえました。  
  「ああ、いいとも。おいしそうなところをたのむよ」 
   ところが、年をとって歯が二本しかのこっていないイヌだけは、ワンワンとオオカミにほえました。  
  「なんてひどいやつらだ! わしに歯がのこっているうちは、ご主人さまのヒツジに、指一本さわらせんぞ!」 
   動物のことばのわかるお金持は、この話をのこらず聞いていました。  
   夜があけると、お金持はヒツジ飼(か)いたちに、 
  「あの年よりのイヌは、だいじにしてやりなさい。しかし、のこりのイヌたちには、おしおきをしなさい」 
  と、いって、おくさんと二人でウマに乗って、家に帰りました。 
   お金持はオスウマに乗り、おくさんはメスウマに乗っていきました。  
   オスウマはかるがるとすすむのに、メスウマはおくれます。  
   オスウマは、メスウマをせきたてました。  
  「もうすこし、はやく歩かないか。どうして、そんなにのろいんだ?」 
   メスウマは、こたえました。  
  「だって、あなたは一人乗せているだけですけど、わたしは二人乗せているんですもの。おくさんと、おくさんのおなかの中の赤ちゃんをね。おまけに、わたしのおなかにも赤ちゃんがいるのよ」 
   ウマの話を聞いたお金持は、うれしくなって笑いだしました。  
   おくさんはそれを見て、ふしぎに思いました。  
  「なにが、そんなにおかしいんですか?」 
  「べつに、ただちょっと、笑っただけだよ」 
  「いいえ、なにかわけがあったんでしょう。どうして教えてくださらないの」 
   わらったわけを、教えることはできません。  
   お金持は、  
  「なんでもないよ、なんでもないよ」 
  と、いいはりましたが、おくさんは承知(しょうち)しません。 
   家へ帰っても、しつこくわけを聞きたがりました。  
   そこでお金持は、  
  「もし、おまえにわけをはなせば、その場でわたしの命はなくなってしまうんだよ」 
  と、いい聞かせました。 
   するとおくさんは、あきらめるどころか、ますますはなしてくれと、お金持をせめたてました。  
   お金持はとうとうかくごをきめて、自分が死んだら入れてもらうかんおけをつくらせました。  
   かんおけができてくると、家の前へおかせていいました。  
  「さあ、それでは、かんおけにはいってからはなしてやろう。いったとたんに、死んでしまうのだから」 
   お金持はかんおけの中にねて、さいごの思い出に、あたりを見まわしました。  
   するとそのとき、歯の二本しかないあのイヌが、息をきらせてかけつけてきました。  
   そして、お金持のまくらもとにすわって、悲しそうになきました。  
   お金持はそれを見て、イヌにパンをやるようにいいつけました。  
   けれどもイヌは、パンには目もくれません。  
   そこへオンドリがやってきて、パンをせっせとつつきはじめました。  
  「はじ知らずめ! ご主人が死ぬっていうときに、パンなんかつついて」 
  と、イヌはオンドリをしかりつけました。 
   するとオンドリは、すましてこたえました。  
  「死にたい人は、死ねばいいのさ。バカバカしい。おくさんのわがままのために死ぬなんて」 
   それを聞いたお金持は、かんおけからおきあがって、  
  「まったく、そのとおりだ」 
  と、いいました。 
   そして、わがままなおくさんを、ピシャリピシャリとたたきました。  
   それからはおくさんは、すっかりおとなしくなって、笑ったわけをもう二度と聞こうとはしなかったということです。  
      おしまい         
         
        
       
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