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1月24日の日本の昔話
  
  
  
  貧乏神と福の神
 むかしむかし、ある村に、とてもびんぼうな男がいました。
   はたらきものの男ですが、いくらはたらいても、くらしはちっとも楽になりません。
  と、いうのも、じつは男の家には、びんぼう神がすみついていたからです。
   そんな男に、村の人たちが嫁(よめ)の世話をしました。
   この嫁は、美人なうえに、はたらき者で、朝からばんまではたらきます。
  「いい嫁ごだ。よし、わしもがんばるぞ!」
   男は以前にもまして、はたらくようになりました。
   そうなるとこまったのは、びんぼう神です。
  「ようはたらく夫婦じゃ。なんだか、ここにはいずらくなってきたのう。わしゃ、どうすればいいんじゃろう」
  と、だんだん元気がなくなってきました。
   それから何年かたった、ある年の大みそか。
   男の家では、わずかながらもごちそうを用意して、ゆっくりと正月をむかえようというとき。
  「うえ〜ん、うえ〜ん」
   天じょううらから、なき声が聞こえます。
  「だれじゃろう? 見てこよう」
   男が見にいくと、なんと、きたない身なりのおじいさんが一人、声をはりあげてないていました。
  「あんたは、いったいだれかね?」
  「わしゃ、びんぼう神(びんぼうがみ→詳細)じゃ。ずっとむかしからこの家にすんどったのに、おまえら夫婦がようはたらくもんで、今夜、福の神がやってくるちゅうんじゃ。そしたら、わしゃあ出ていかんとならんのだ! わ〜ん、わ〜ん」
   男は、自分の家の守り神がびんぼう神と聞いて、すこしガッカリしましたが、それでも神さまは神さまです。
   下の部屋におりてもらって、嫁にわけを話しました。
   そして、びんぼう神がかわいそうになった男は、ついこんなことをいいました。
  「せっかく長いことおったんじゃ。これからもずっと、ここにおってくだされ」
   嫁も、口をそろえて。
  「そうじゃ、そうじゃ。それがええ」
   どこへいってもきらわれもののびんぼう神は、はじめてやさしいことばをかけられて、こんどはうれしなきです。
  「うえ〜ん、うえ〜ん」
   こうしているうちに、夜もふけて、除夜(じょや)のかねがなりはじめました。
   これが、神さまのこうたいする合図です。
   そのとき、トントントンと、戸をたたく音がしました。
  「こんな夜ふけに、どなたですじゃ」
  「ガッハハハハ。おまたせ、おまたせ。わしは、神の国からはるばるやってきた、幸福の使いの福の神でごぜえますだ」
   ついに、福の神がやってきました。
   福の神はびんぼう神に気がつくと、
  「なんだ、うすぎたないの、まだおったんか。はよ出ていかんと、力ずくでも追い出すぞ!」
   だが、びんぼう神もまけていません。
  「なにお〜っ」
  と、福の神に突進しましたが、やせてヒョロヒョロのびんぼう神と、でっぷり太った福の神では、勝負になりません。
   それを見ていた夫婦は、
  「あっ、あぶねえ!」
  「びんぼう神、負けるでねえ!」
   おどろいたのは福の神です。
  「なんで? なんでびんぼう神をおうえんするんじゃあ」
   夫婦はびんぼう神といっしょに、福の神を押し出します。
  「わっせい! わっせい!」
   とうとう三人がかりで、福の神を家の外へおし出してしまいました。
   福の神は、あぜん、ぼうぜん。
  「わし、福の神よ。中にいるのがびんぼう神。びんぼう神はきらわれて、福の神はたいせつにされるはずなのに、いったい、どういうこと?」
   首をひねりながら、すごすごとひきあげていきました。
  「やった、やった!」
   つぎの日は、めでたい正月。
   びんぼう神もいっしょに正月をいわいました。
   それからというもの、びんぼう神のせいで、この家はあまり金持ちにはなりませんでしたが、元気でしあわせにくらしました。
おしまい